契約時と違う事業を始めた貸事務所の入居者!これって契約解除できる?

事業用賃貸の場合でテナントが契約時に説明していた内容とは違う事業を行っていた場合、貸主は契約解除を求めることは可能でしょうか?

契約時と違う事業を始めた貸事務所の入居者はどうする?

「マンションの1階に最近入ったお店、なんだかいかがわしいお店をやってる様子なんですけど...」管理しているマンションの入居者からこんな苦情の電話が入りました。
慌てて確認してみると、入居時には「静かなバーを営業する」と言っていたはずのお店が実は風俗店として営業していたことが判明しました。

早速テナントに連絡してみると「予定が変わったけど、事業用として借りているんだからなんの事業をしてもこっちの勝手だろ!」と悪びれるそぶりもなし。
オーナーは即時での賃貸借契約の解除を求めています。

さて、事業用の賃貸の場合でテナントが契約時に説明していた内容とは違う事業を行っていた場合、貸主は契約の解除を求めることは可能なのでしょうか?

賃貸物件の借主が守らなくてはならない4つのルール

賃貸借契約は基本的には「借主保護」の色合いが強い内容になっています。そのため、貸主の一方的な都合で契約を解除したりすることはできません。
しかし、同時に借主にも守らなくてはならないルールが定められています。

  1. 賃料の支払い義務...毎月定められた家賃を支払うこと
  2. 善管注意義務...借りている間は、一般的、客観的にみて、大切に扱うこと
  3. 目的物返還義務...借りた部屋を原状回復して返すこと
  4. 用法順守義務...契約で定められた使用用途を守ること

今回のような、契約時に貸主が認めた内容と異なる使用方法を行っていた場合は、4番目の「用法順守義務」に反しています。
用法順守義務違反は、「ペット禁止」や「楽器禁止」等も含まれます。

そして民法では借主による用法順守義務違反は、賃貸借契約の解除理由に当たるとされています。

民法594第:(借主による使用及び収益)

  1. 借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない。
  2. 借主は、貸主の承諾を得なければ、第三者に借用物の使用又は収益をさせることができない。
  3. 借主が前二項の規定に違反して使用又は収益をしたときは、貸主は、契約の解除をすることができる。

引用元:民法第594条

つまり、今回のケースの場合、貸主は借主が契約時に説明した内容の事業であればOKという内容で契約をしています。その事業内容が全く異なっているのであれば、当然「用法順守義務違反」に当たります。

では、用法順守義務違反があれば、貸主は即契約解除を求めることができるのでしょうか?

用法順守義務違反=即契約解除ではない

残念ながら、用法順守義務違反があったからと言って、即契約解除ができるわけではありません。

例えば、楽器禁止の物件でギターを弾いたり、ペット禁止の物件でペットを飼っていたとしても、それだけでは借主と貸主の信頼関係が破壊されたとは言えず、即契約解除を求めることは難しいのです。

用法順守義務違反で賃貸借契約の解除を求める場合、その違反が貸主と借主の「信頼関係が破壊されている」といえるだけの事由に当たらない限りは難しいのです。
ペットの飼育や楽器の演奏くらいでは、何度も注意をしても無視し続ける、近隣住民から苦情になる、などの相応の理由がない限りは「信頼関係が破壊されている」とは言えないでしょう。

では、事業用の物件で契約時と異なる事業を行っていた場合は「信頼関係が崩壊している」と判断されるのでしょうか?

契約解除ができるかは、用法順守義務違反の重度さによる

用法順守義務違反を理由に賃貸借契約の解除を求めた事例は過去にもいくつかあり、その判例は様々です。

契約解除が認められたケース

事務所利用の目的で賃貸した貸室を、テレホンクラブとして利用していた→契約解除が有効
東京地方裁判所/昭和63年12月5日判決

  • テレホンクラブという業種が建物全体の品位を損ない、警察の捜索を受けるなど所有者として好ましくない事態が生ずる恐れがあること
  • 契約を結ぶ際にテレホンクラブを営業することを隠していたこと。またそれがわかっていれば貸主は賃貸借契約を結ばなかったこと
  • 他の入居者から苦情が出ていること

上記3点を理由に、借主と貸主の信頼関係は破壊されている、と判断し、裁判所は貸主の契約解除の求めを認めました。

個人事務所として使用するとして契約したが、実際は暴力団の事務所として使用していた→契約解除が有効
東京地方裁判所/平成7年10月11日判決

  • 契約時に反社会的勢力の事務所として使用することを隠していたこと
  • それがわかっていれば貸主は賃貸借契約を結ばなかったこと
  • 反社会的勢力の活動拠点として利用することは貸主への背信行為に当たること

上記3点を理由に、借主と貸主の信頼関係は破壊されている、と判断し裁判所は貸主の契約解除の求めを認めました。

契約解除が認めらなかったケース

住居用として借りた物件で学習塾を経営していた→契約解除が認められず

  • 生徒数は6名程度に過ぎず、借主は床に絨毯を敷くなど、建物への配慮をしていたこと
  • 借主は開塾後、貸主の申し出を受けて塾を辞めており現在は住居として使用していること
  • 比較的少人数の家族が住居として使用することを予定しており、6名程度での利用では用法違反にはいえないこと

上記の理由から賃貸借契約は解除できない、という判決となりました。

借主が活版印刷の工場兼事務所に使っていた建物を、写真印刷の製版のための作業所に変更した→契約解除が認められず
東京地方裁判所/平成3年12月19日判決

  • 写真印刷の製版作業は活版印刷作業よりも静かで清潔な作業であり、貸主に不利益を及ぼさないこと
  • 建物の性質を変えるような変更はなく、原状回復はそれほど困難でなく、建物への影響が少ないこと
  • 業態を変えるだけのやむを得ない事情が借主にあったこと

この裁判でも上記の理由から賃貸借契約は解除できない、という判決となりました。

まとめ

ここまで読んで頂くと、用法順守義務違反はそれだけを理由に契約を解除できるわけではなく、総合的に事情を鑑みて、借主と貸主の信頼関係が崩壊している、といえる事情が無くてはならないといえます。

具体的には、主に以下の4点が契約解除に相当するかの判断基準になるといえます。

  1. 契約成立までの経緯
  2. 用法順守義務違反に関する貸主と借主の交渉の経緯
  3. 建物に及ぼす物理的・社会的影響の大きさ
  4. 近隣住民への迷惑の有無

また、例えば無断転貸を伴っていた場合(無断での民泊利用)や賃料の滞納がある場合など、用法順守義務違反にも賃貸借契約を解除するに相当する事由がある場合は、「信頼関係が崩壊している」と判断されやすくなるでしょう。

賃貸借契約の締結の時点で、例えば「事務所」や「店舗」といったあいまいな利用用途の説明しかない場合は、具体的にどういった事業に使用するのか、細かく確認することも重要でしょう。

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