今回は、店舗やオフィスビルを運営している賃貸管理会社様にとって、借主(テナント)とトラブルになりやすいケースの1つとして、「看板トラブル」について取り上げて解説していきます。
借主(テナント)にとって看板は、お店の集客と売り上げアップを左右するものなので、「できる限り通行人の目をひきたい」と考え、店舗運営には看板の設置が必要不可欠なものと位置付けています。
一方、貸主(オーナー)にとって看板は、所有物である建物の景観を決定づけるものなので、「建物のイメージとかけ離れた看板を設置してほしくない」と考える方は多いのではないでしょうか。
このように、貸主と借主の間で看板の設置に対して相反する考え方持っていることが原因で、借主が貸主に無断で看板を設置や、貸主のイメージするデザインではない看板を設置してトラブルが発生するケースが相次いでいます。
また、看板トラブルについては、貸主の方で事前に対応方法を把握しておかないと、トラブル解決までに時間や労力を要してしまい、結果的に借主に有利な形で看板を設置されてしまう可能性も孕んでいます。
入居しているテナント(店舗など)が貸主に無断で看板を設置した場合の対応方法について
東京地裁平成18年6月9日判決を例にあげると、貸主(オーナー)と借主(テナント)の間で看板の設置に関するルールを含めた賃貸借契約書を交わしたにも関わらず、借主が特約で許可された範囲を超えて看板などを設置したという事件がありました。
そこで貸主は、看板の撤去と設置の禁止を求め裁判所を起こし、結果、裁判所も貸主の主張を認めた形で事件は解決しました。
参考記事:テナントが無断で共用部分に看板を設置したら
裁判所が貸主の主張を認めた根拠は、契約書で予め看板の設置を禁止する旨を明記していたからです。
そのため、判決は貸主の主張は認める形となりましたが、多くの貸主の心情としては、裁判を行うと膨大な時間と労力がかかるため、できる限り穏便にトラブルを解決したいところだと思います。
そこで、まずは貸主の方で取り組める、看板トラブルに対応する3つのステップを紹介します。
ステップ1:話し合いをしてテナントに看板を撤去してもらう
上記裁判の判例によると、貸主は予め契約書に以下の契約内容を明記していました。
- 入居者は、他の入居者の営業に支障を及ぼすような宣伝・広告・装飾および陳列をしてはならない。
- 建物および敷地内では管理会社が設置、または許可、指定したもの以外の店舗名、社名案内板、掲示板、その他各種広告類の掲示は一切出来ない。
しかし、借主は「特約を律儀に守れば営業上不利だ」という理由で、特約で許可された範囲を超えて看板を設置してしまいました。
この場合、貸主は事前に契約書で看板設置に関するルールを定めており、テナントが違反しているという状況であるため毅然とした態度で交渉に挑む必要があります。
契約内容に違反しているからといっていきなり訴訟を起こすのではなく、テナントに対して話し合いする場を設け、契約書で看板設置に関するルールを交わしたことを再確認し、看板を撤去してもらうよう説得しましょう。
ステップ2:配達証明付内容証明郵便を送付して警告する
ステップ1で借主と貸主の話し合いが決裂した場合、ステップ2に移行します。
ステップ2は、後述する訴訟を起こす際、「貸主は確かに借主に警告した」という法的根拠を作るための必要な下準備となります。また、テナント自身も「内容証明郵便が送付されてきた」という事実に貸主側の訴訟も辞さない態度を感じて、看板の撤去に応じるというケースも考えられます。
ステップ3:契約解除や看板撤去について訴訟を起こす
内容証明郵便を送付して警告しても借主が応じない場合は、契約解除あるいは看板の撤去について訴訟を起こす段階に入ります。
賃貸借契約の解除にあたっては、立ち退きを求めるための「正当事由」が必要になります。
今まで提案した対応方法を踏まえると、貸主はステップ1で借主と話し合いの場を設けたうえで看板の撤去を求め、ステップ2で内容証明郵便をもって看板の撤去を警告しています。
つまり、契約解除に至るまでに借主に対して複数回警告をしていることになり、貸主は、借主の背信行為であることを理由に、契約解除を有効にできる可能性が高くなります。それでも借主が応じない場合は、最終手段として訴訟を起こし、裁判に判断をゆだねる必要があります。
無断で看板を設置されないためにも、契約書内で設置禁止の条文を明記することが重要となります。
ここまで、3つのステップを踏んで看板トラブルに対応する方法について解説してきましたが、借主に無断で看板を設置された場合、前提となる重要なポイントが「契約書に予め看板の設置を禁止する旨を明記すること」です。
契約時に書面・口頭で説明した上で契約に至った内容を違反しているというシーンであるため、貸主側も看板撤去や契約解除についての対応を取ることができるようになります。
具体的な条文としては以下のような内容が明記されていることが求められます。
「借主は貸主による承諾がない限り、借主は賃貸建物及び敷地内において看板、広告その他の営業のための表示や設置を行うことはできない。」
同裁判では、このように予め契約書に看板の設置を禁止する旨を明記していたため、テナントが契約書の内容を無視して看板の設置を行ったと客観的に立証することができ、看板を撤去および設置の禁止が認められたと考えられます。
次に、看板を設置することを許可したものの、当初の予定と違う看板が設置された場合の対応方法を解説してきます。この場合、契約書上で看板のデザインについてどう明記しているかによって対応方法が異なりますので、注意が必要です。
看板を設置することは許可したけど想定していたデザインではなかった場合はどのように対応すべきでしょうか?
看板については設置の可否だけでなく、どのようなデザインの看板や広告を設置されるのかということも重要な内容となります。
高級感溢れる街並みにリッチするビルなのに、電飾ギラギラの看板が設置されてしまうと対象ビルのイメージダウンにつながることもあり、貸主や不動産管理会社としては、看板を設置するのであれば対象の不動産物件のイメージや近隣建物のデザイン、街の雰囲気に沿ったデザインの看板にしたいと考えられていると思います。
ただ、テナントとしては対象不動産のイメージなどを尊重はするものの、前述の通り「看板による視認性の向上や集客力アップ」を目的としているので、貸主や賃貸管理会社がイメージするデザインとは違う内容を設置してくる可能性もあります。
そのため、看板の設置を許可したはいいものの、全く想定とは違うデザインの看板が設置された場合について、不動産管理会社としてはどのように対応を進めていくべきでしょう?
ここで重要なポイントとなるのが「契約書上で看板のデザインについての記載があるかどうか」となります。
契約書上に看板や広告のデザインについて"明記されている"場合
契約書などで設置する看板のデザインや場所について明記されている場合は、予め契約書を交わしていることを理由に、借主へ看板の撤去を警告することが可能です。
前述の「無断で看板を設置された場合」と同じような流れで対応を進めていくことがベターであるといえます。
まずは、話し合いによって契約書上で取り決めた看板のデザインと違う旨を説明し、看板デザインの修正について交渉を行いましょう。
※看板についてはイメージパースなどの場合もあるため、軽微な内容であれば貸主側が譲歩する必要があるケースもあります。
当初のデザインから大幅に違うデザインで修正についての交渉が決裂した場合はひきつづき交渉を行いながら、内容証明郵便の送付などの事務手続きを進めていくこととなります。
その後、どうしても看板デザインの修正に応じてもらえない場合は、該当看板の撤去や契約解除の訴訟を行っていくこととなります。
契約書上に看板や広告のデザインについて"明記されていない"場合
結論からいうと、契約書で看板デザインの指定がない場合、借主に看板の撤去を説得するのは難しいケースが多いことが現状です。
テナントからすると、「看板の設置を許可してもらったので設置しているのに貸主側の意向にそぐわないからといって、看板のデザイン変更や撤去を求めるなんておかしい。契約書にもそんなことは書いていない」と切り返された場合、デザイン変更や撤去を求める根拠が弱いと言わざるを得ません。
看板の設置は、テナントにとってお店の集客や売り上げに必要不可欠なことであるため、貸主はそれ以上の看板撤去理由を用意し、粘り強く交渉を続ける必要があります。
そこで、ここではテナントを説得するための2つのアプローチ方法について解説していきます。
建物の美観を損ねていることを説明して、デザインの変更をお願いする
まずは、
「看板の設置によって、建物のイメージが低下している。現在入居中のテナントからも看板のデザイン変更や撤去を求めている声をもらっている。」
「近隣のビルオーナーから、そのデザインの看板を出されることで街の雰囲気を壊しているため迷惑を被っている」といった事例が発生していないか調査を行います。
その後、対象不動産に入居中の方からの声であったり近隣からの声として、対象テナントにデザインの変更や看板撤去について交渉を行っていきます。
景観条例に反していないかどうか確認する
物件の所在地で景観条例が制定されている場合は、景観条例を理由に借主に説得する方法が考えれます。
景観条例とは、美しい町並み・良好な都市景観を形成し保全するため、地方自治体が制定している条例のことです。
景観条例によって「住宅の外観について町家風の和風外観で日本瓦葺きでなければならない」「建築物の高さにおいて、全体10m、軒の高さ7m制限やこの条例による敷地面積による壁面後退の制限、外壁の色も許可される範囲が限られる」などの制限がかけられている地域があります。
もし、物件の所在地でこのような景観条例が制定されていると、「この看板は、ネオン、電灯を多数用いて点灯させているから、景観条例に反している」といった根拠をもとにして交渉にあたることができます。
ただ、景観条例に反していない場合はどうしてもテナントとの地道な交渉となるため、多大な時間と手間がかかってしまったり、結局貸主の要求に沿って改善してもらえないといった状況に陥るケースも多々あるかと思います。
そのため、契約時には看板のデザインについても必ず明記を行いクレームやトラブル発生のリスクを回避する努力が必要となります。
まとめ
今回は、看板トラブルをテーマに、テナントと看板トラブルがあった場合の対応方法について解説していきました。
基本的に看板の設置可否については、貸主(オーナー)と借主(テナント)で自由に契約を交わすことができます。
また、看板の設置に許可を出したものの、看板のデザインについて契約書に明記していなかった場合、貸主にとって看板トラブルの解決は困難なものになる可能性が高いと考えられます。
したがって、そのようなトラブルを未然に防ぐためにも、契約書に予め以下のような内容の条文を明記することが求められます。
- 看板の設置可否について
- 看板の設置を許可する場合はそのデザインや場所の指定(ネオン、電灯を多数用いて点灯させる看板の設置を禁じる等)
- 看板設置に関する契約に違反した場合の対応方法
賃貸借契約書に看板設置に関するルールが明記されていない場合、デザイン変更や撤去についての対応は困難な業務となってしまうため、契約書何に具体的なルールを明記することが、看板トラブルを解決するための重要なポイントであると言えます
※実際の運用と本記事の内容が異なる場合は、弁護士の方などと相談の上、対応されますことを記載致します。
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