不動産で発生する隣人トラブルには数多くの種類が存在しますが、なかなか対応が難しいものの一つに「隣地からの越境(敷地を超えてはみ出している)樹木」のトラブルがあります。
バルコニーやベランダからの見晴らしの良さや、スペースを使っての家庭菜園など、バルコニーやベランダの状態は入居者の方によっては入居動機のポイントになることも多く、そこに隣地に植えられた樹木から落ち葉や虫が落ちるような状態であればトラブルになってしまう可能性も高いでしょう。
しかし、いくら邪魔でも他人の木を勝手に切ってしまっていいのか?とお悩みの方は多いとおもいます。
今回は法律的に隣地からの越境樹木トラブルへの対処法を具体的な事例を交えつつご紹介していきます。
ベランダやバルコニーに入ってくる隣地からの越境樹木は切ってしまって良いのか?
まず、隣地の樹木が越境して自分の敷地に入っている場合、その樹木が邪魔であれば切ってしまっても問題は無いのでしょうか?
結論から言いますと、「切っていいかは越境している樹木の部分によって違う。」のです。
越境樹木の対応方法については、民法233条で明確に規程がされています。
民法第233条(竹木の切除及び根の切り取り)
- 隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
- 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。
つまり、まとめると以下のようになります。
- 樹木の枝部分が越境している場合→その樹木の所有者に木を切ってもらうように依頼することができる。
- 樹木の根部分が越境している場合→自身の判断で根を切り取ることができる。
枝の場合は、越境していても勝手に切ってはいけないということですね。
枝の越境に関する対処法と注意点
賃貸マンションやアパートなどの賃貸住宅の場合、越境してくるのはほとんどが枝の部分になると思います。
前述のように枝の越境の場合、木の所有者に切ってもらうように依頼するしか対処法はありません。
勝手に枝を切ってしまうと器物損壊で告訴されたり、民事上の損害賠償を請求される可能性があります。
つまり、「いくら邪魔でも他人の樹木の枝は勝手に切ってはいけない」のです。
また、仮に樹木の枝が越境していても、なんでも「切って下さい」と木の所有者に要求できるわけではありません。
新潟地裁判例(昭和39年12月22日)で、枝の越境を理由に切除を要求できる要件として、以下の2点を挙げています。
- 枝の越境によって明確な被害を被っていること
- 枝を伐採することで、依頼者が回復する利益と樹木の所有者が受ける損失に不当に差がないこと
つまり、民法233条の枝を切るように請求できると規定されていても、越境している枝によって明確な被害を追っていない場合は請求できないというわけです。
ただ枝が越境しているだけでそれを切るように樹木の所有者に求めることは、民法第1条第3項で禁止されている「権利の濫用」に当たるという考えが一般的です。
民法第1条第3項(基本原則)
権利の濫用は、これを許さない。
木の依頼を所有者に求められる被害としては、以下のような場合が挙げられます。
- 落ち葉が大量に舞い込んでくることで、バルコニーの排水口が詰まってしまう
- 落ち葉が大量に舞い込んでくることで、建物が腐食するなどの劣化被害が起きている
- 枝に虫が大量に集まってきており、害虫の駆除をしなくてはならない状態が起きている
このようなケースに当てはまる場合は、木の所有者に対して越境している枝を切ってもらうように請求することができます。(あくまで請求できるのであり、勝手に切ることはできません。)
根の越境に関する対処法と注意点
樹木の根が越境してくるケースで多いのは、戸建てや事務所、駐車場としての利用の場合でしょう。
根がアスファルトを突き破って生えて来たりしてしまったケースを想定すると分かりやすいと思います
この場合、民法233条2項より、根が越境している場合は木の所有者の承認を得なくても根を切ることができると規定されています。
しかし、注意しなくてはいけないのが、根の場合でも勝手に切ってしまって問題がないわけではないということです。
例えば、根を勝手に切った結果、樹木自体が枯れてしまった場合、木の所有者とトラブルになることは避けられないでしょう。
事前に「あなたの植えている木の根が越境しているので、根を切りますね。」と一言伝えて同意をもらっておけば、このようなトラブルは回避することができるはずです。
民法は前提条件として、隣人同士の関係は「相互の強力・受任関係の元に円満に物事を解決しましょう。」という立場にあります。ですから、条文を理由付けにトラブルを回避しようとしないやり方は前述の「権利の濫用」にあたり、保護されません。
無用なトラブルを回避する為にも、根の越境に関しても事前に木の所有者に申し出をし、合意を取り交わしてから対処するべきでしょう。
具体的な事例を元に越境トラブルを考える
では、ここからは枝や根の対処方法の応用として、より具体的なケースを上げて解説していきましょう。
ケース1:切り取った枝の処分費用の負担
あなたは所有しているアパートで隣地から伸びている枝がベランダに越境して落葉被害が出ていることを知りました。
木の所有者に切り取りを依頼したところ、「切るのは良いが、枝の処分と発生する費用はあなたが負担して下さい。」と言われました。
切り取りを依頼した側は木の処分とそれにかかる費用を負担しなくてはいけないのでしょうか?
答えは「処分をする必要もありませんし、費用も負担しなくていい」です。仮に切り取った後でも、枝の所有権は木の所有者のままです。自己の所有権を持つものの処分は所有者が行わなくてはいけません。
越境トラブルの被害者は「切って欲しい」と請求する権利を有していますが、切るかどうかは所有者の判断です。
そのため、当然切った結果発生した枝の処分費用も木の所有者が負担することとなります。
ケース2:越境している枝から落ちた果実の処分
所有しているマンションのベランダに隣家から越境していた枝になった柿の実が、マンションのベランダに落ちていたとして、入居者から「食べてもいいか?」と質問されたとします。
枝から落ちた果実は木の所有者の承認を得ずに食べてもいいのでしょうか?
答えは「食べてはいけない」です。
なぜなら、木から落ちていたとしても実の所有権は木の所有者にあるからです。
民法206条より、物件の所有者は所有物から発生した収益に関する権利も保有しています。
民法第206条(所有権の内容)
所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
つまり、例え実が枝から離れていても、それを生み出した樹木の所有者の承諾なしに処分してはいけないのです。
この場合は、木の所有者に果実が敷地内に落ちていることを報告し、回収してよいか確認してから処分しましょう。所有者の許可があれば食べても問題ありません。
ケース3:越境している枝を「切っていい」と承認をもらえた場合
では、越境している枝で何らかの具体的な被害を受けており、木の所有者に枝の伐採を依頼したところ、相手が「枝を切っていい」と承認した場合は切ってもいいのでしょうか?
この場合は、切っても問題はありません。
木の所有者が越境している枝の伐採を承認した場合は、その土地に立ち入り、越境している範囲の枝を切っても問題はないのです。
ただし、こういった口頭のみの合意は後から「そんなことは言っていない」と言われてしまうとトラブルに繋がる恐れもあります。事前に書面での合意を取り交わしておきましょう。
- 枝の処分は木の所有者が行う
- 枝を切った結果、樹木が枯れても一切の責任は追わない
などの取り決めをしておくとよいでしょう。
相手が枝の伐採に応じてくれない場合の対処方法
では、枝の越境が合った場合に、樹木の所有者に枝の切り取りを依頼しても対応してくれない場合はどのように対処すれば良いのでしょう?
前述の通り、越境を受けている側が樹木の所有者にできることは「枝を切って下さい」と請求するまでになります。
その為相手が何度いっても応じてくれず、具体的な損害を被っている場合は、裁判上の手続きを経て強制執行を勝ち取るという方法になるでしょう。
しかし、ここで重要になってくるのがその後の隣地との関係性です。
仮に枝を切ってもらうことができても、裁判沙汰になった場合今後の関係は非常に険悪になる可能性もあります。隣地との関係はほぼ永続的に続くことを考えると、あまり喧嘩腰での対応をすることは望ましくはないでしょう。
ここからは筆者の経験談になりますが、そもそも所有する樹木を越境するまで伸びざらしにしている方はあまり樹木を大切にしておらず、管理が面倒という方も少なくないとおもいます。(大切にしている方はご自分で定期的に剪定をする場合が多い。)
そのような方に「切って下さい」と請求しても、なかなか応じてくれないということになりやすいのではないでしょうか?
「差し支えがなければ、代わりに枝を切らせてもらえませんか?」
「剪定の業者をご紹介するので、切ってもらえませんか?」
「越境しない位置に植え替えをしませんか?」
などの、こちらから歩み寄る姿勢で対応をし、トラブルにつながらないような対応を心がけることが望ましいでしょう。
隣地との越境トラブルは、円満な解決を目指しましょう。
今回は隣地樹木の越境トラブルについて、対処法を紹介してきました。
今回は樹木というよくあるケースを紹介しましたが、その他にも隣地との越境トラブルには以下のようなケースが考えられます。
- 店舗として貸している物件で、店子が取り付けた看板が越境している場合
- 屋根が敷地範囲を超えてしまい、雨が降ると隣家の屋根に大量の雨が流れ込む
- 物件の周りの生け垣が伸びてしまい、隣家の出入の妨げになる
狭い敷地に建物が並ぶ日本では、避けては通れない隣地との越境トラブル。結局の所、越えては行けないのが原則ですが、超えてしまったとしても明確な被害がない場合は、双方で受任理解して円満に解決しなくては行けないというのが原則です。
一度隣同士になった以上、建物はそう簡単に移動することができません。あまりに喧嘩腰の対応をしてしまうと、その後も尾を引いて、様々なトラブルを招くリスクも否定できません。
越境トラブルの発生時は、しっかりと自分たちの主張できる範囲を認識しつつ、可能な限り穏便に解決に持っていくことが重要となるでしょう。
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