この記事では、2021年6月に成立したデジタル改革関連法案の概要と、不動産管理業務の現場にもたらす影響についてわかりやすく解説します。
【1】デジタル改革関連法案とは?
2021年6月12日、デジタル改革関連6法が参議院本会議で賛成多数を得て可決、のち成立しました。
9月の施行を待つこの法律は、どんな内容なのでしょうか。
「6法」とは、以下のとおりです。
- デジタル社会形成基本法案
- デジタル庁設置法案
- デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案
- 公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律案
- 預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律案
- 地方公共団体情報システムの標準化に関する法律案
デジタル社会形成基本法案
国民すべてに対して、一切の例外なくデジタル化の恩恵を届けるという「理念」や、デジタル化の普及を達成するため行政と民間の役割を分担しようという「基本方針」をまとめたものです。
役割分担とは、具体的にいうと行政は情報システム普及のための環境整備に注力し、民間はその実践に関して主導的な役割を担うというものです。
デジタル庁設置法案
先述したような、「デジタル化の恩恵によって国民の生活を豊かにする」という目的を達成するため、デジタル化に関する企画立案・調整をおこなうための機関「デジタル庁」を設置することを決めた法案です。
デジタル庁は、これまで各府庁や地方公共団体が担っていたマイナンバーや電子署名に係る企画の立案を引き受けることになります。また、政府や地方公共団体が使用するシステムの統括・管理も担います。
デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案
この法律案は、国民の生活を豊かにするデジタル社会の形成を実現するため、マイナンバーの利便性を向上させる法改正や個人情報保護法の改正について取り決めたものです。
これにより、医師や社会福祉士、税理士等の国家資格とマイナンバー情報を連携させて資格情報をデジタル管理できるようになります。
また、これまで異なっていた「個人情報」の定義を国・民間・地方で統一したり、その取扱いに関する規律を明確化することで、個人情報に関する事務手続きがどこでも適切に扱われるようになります。
また、この法案において特筆すべきは、押印・紙の書面交付が必要な手続きについて電磁的方法に置き換えることを可能にした点です。
押印については、戸籍の届書や監査報告書への押印等が廃止されます。ただし、法人の登記申請や相続税申告など押印を存続しなければならないものもあるので注意が必要です。
紙の書面交付については、当事者の承諾がある場合に、紙の書面交付の代わりに電子署名等を使用できます。
公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律案
公的な給付を迅速に実施するため、預貯金口座情報をマイナンバーと連携させて管理し、行政機関が給付する際、口座情報の提供を要求できるようになります。
「公的給付」とは、例えば
- 国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある災害もしくは感染症が発生した際に支給されるもの
- 経済事情の急激な変動による影響を緩和するために支給されるもの
といったものがあります。
預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律案
先述したマイナンバーと預貯金口座情報の連携について、その実施可否を国民が自身で判断することができます。
このような法案が成立した背景には、新型コロナウィルス対策の公的給付がスムーズに展開されなかったことが挙げられます。
個人が自ら振込先口座情報を申告する必要があったため、申請する側・確認する職員側の双方で大きな負担となりました。マイナンバーと口座情報を連携させれば、簡易的なオンライン申請が実現します。
地方公共団体情報システムの標準化に関する法律案
国や各地方公共団体にて取り扱っている情報システムの規格が異なると、団体間の調整に関し負担が大きくなります。そこで、使用するシステムの機能等についてある程度基準を設け、情報のデジタル化がどの現場でも効率的に働くことを目指します。
以上が、デジタル改革関連法の概要になります。
それでは、この法律による賃貸管理業務の現場における影響とはいかなるものになるのでしょうか。
ここからは、賃貸管理業務の変化について解説していきます。
【2】不動産管理業務への影響
結論から言うと、不動産管理業務においては重要事項説明書(35条書面)・賃貸借契約書(37条書面))の電子化が可能になります。
その法的根拠は以下のとおりです。
デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案
第十七条
宅地建物取引業法(昭和二十七年法律第百七十六号)の一部を次のように改正する。
第三十五条第五項中「記名押印しなければ」を「記名しなければ」に改め、同条第七項中「記名押印させなければ」を「記名させなければ」に改め、同条に次の二項を加える。
8 宅地建物取引業者は、第一項から第三項までの規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、第一項に規定する宅地建物取引業者の相手方等、第二項に規定する宅地若しくは建物の割賦販売の相手方又は第三項に規定する売買の相手方の承諾を得て、宅地建物取引士に、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法であつて第五項の規定による措置に代わる措置を講ずるものとして国土交通省令で定めるものにより提供させることができる。この場合において、当該宅地建物取引業者は、当該宅地建物取引士に当該書面を交付させたものとみなし、同項の規定は、適用しない。
9 宅地建物取引業者は、第六項の規定により読み替えて適用する第一項又は第二項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、第六項の規定により読み替えて適用する第一項に規定する宅地建物取引業者の相手方等である宅地建物取引業者又は第六項の規定により読み替えて適用する第二項に規定する宅地若しくは建物の割賦販売の相手方である宅地建物取引業者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法であつて第七項の規定による措置に代わる措置を講ずるものとして国土交通省令で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該宅地建物取引業者は、当該書面を交付したものとみなし、同項の規定は、適用しない。第三十七条第三項中「記名押印させなければ」を「記名させなければ」に改め、同条に次の二項を加える。
4 宅地建物取引業者は、第一項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法であつて前項の規定による措置に代わる措置を講ずるものとして国土交通省令で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該宅地建物取引業者は、当該書面を交付したものとみなし、同項の規定は、適用しない。
一 自ら当事者として契約を締結した場合当該契約の相手方
二 当事者を代理して契約を締結した場合当該契約の相手方及び代理を依頼した者
三 その媒介により契約が成立した場合当該契約の各当事者5 宅地建物取引業者は、第二項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法であつて第三項の規定による措置に代わる措置を講ずるものとして国土交通省令で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該宅地建物取引業者は、当該書面を交付したものとみなし、同項の規定は、適用しない。
一 当事者を代理して契約を締結した場合 当該契約の相手方及び代理を依頼した者
二 その媒介により契約が成立した場合 当該契約の各当事者
これまで、賃貸借契約書については契約更新時の電子契約は可能だったものの、宅建業法の規定により新規契約の際に電子署名を活用することはできませんでした。
しかし、今回、重要事項説明書と合わせて電子署名を実施できるようになったことで、不動産管理業務における「ペーパーレス化」「書類作成コストの削減」の推進が可能になります。
紙の書類を作成して、それを契約者やオーナーに郵送、そして返送されてきた書類を管理する。
こういった業務プロセスが当たり前だった不動産管理の現場には大きな変化と言えます。
言わずもがな、契約書等の作成・郵送にかかるコストは膨大です。レターパックを使用している場合は1件の書類送付につき370円かかりますし、書類作成にかかる人件費や紙代・印刷代・管理代等を含めれば1件書類を送付するだけで700円以上のコストがかかることになります。
電子署名を活用すれば、先述したすべてのコストを大幅に削減できます。
金銭的コストだけではなく、業務時間も大幅に削減できますので、そのぶん浮いた時間を注力すべき別の業務に充てたり、残業時間を減らして社員の働きやすさを確保することができるでしょう。
また、契約書類等の電子化には以下のようなメリットもあります。
- 現在テレワークや非対面での契約を推進する企業・個人が急激に増えており、その流れに対応することができれば、今後入居希望のお問合わせが減ってしまうような状況を回避できる。
- 書類を電子化することで、膨大な紙の書類を1つひとつファイルにまとめて保管しておく煩雑なスタイルから脱却できる。また、書類が必要な際にいつでも簡単にアクセスできるようになる。
- 送られてきた郵便物に気づきにくい入居者でも、電子契約のお知らせ(メール)ならすぐに開封してくれる可能性がある。
さらに、書類を電子化するメリットは入居希望のお客様サイドにも存在します。
- 直接店舗に行く必要がないため重要事項説明や契約締結の日程調整がしやすくなる
- コロナウィルス流行の社会状況において、非接触・非対面を希望するお客様でも契約しやすい
- 店舗から遠くに住んでいたり、ご高齢で遠出が困難なお客様でも気軽に手続きできる
こんな社会状況だからこそ、書類の電子化を進めれば入居希望のお客様の信頼を得て、物件の稼働率をアップさせられるメリットがあります。
では早速契約書の電子化を進めようと思われた方に、1つ注意点をお伝えします。
宅地建物取引業に関する法改正について、施行は「法律の公布から1年以内」とされています。
そのため、実際に賃貸借契約書と重要事項説明書を電子署名によって運用できるのはデジタル改革関連法が施行される9月ではなく、2022年からになると予測されます。
【3】まとめ
デジタル改革関連法の成立によって、電子署名による契約が可能になり、その結果不動産管理業務におけるコストは大幅に削減できます。
しかし、それはすべての現場に当てはまる話なのでしょうか。
「契約時の書類電子化は、管理戸数2,000件を超えるような大きな会社にとってはメリットがあるかもしれないが、ウチみたいな小さな会社で電子署名を導入するメリットなんてあるんだろうか」
そんな疑問をもつ方もいらっしゃるかもしれません。
例えば、管理戸数100件の会社の空室率が10%であると前提してみましょう。この場合、電子署名を導入するメリットはあるでしょうか。
書類を電子化する機能を備えた高額な賃貸管理システムを導入してみたはいいけれど、実際に使ってみたら大してコストを削減できなかった、なんてケースもあるかもしれません。
たしかに、これまでどおり紙の書類で運用したほうがまだマシ、ということもあるでしょう。
しかし、書類を電子化するメリットは単にコスト削減という点のみに働くわけではありません。煩雑な管理から解放されることでスタッフの働きやすさにもつながります。
また、考慮すべきは、今後入居希望のお客様が電子署名を希望するケースが多くなる可能性です。
そもそも不動産管理の業界は、一部の管理戸数が多い会社が全体の物件数の多くをシェアしているような状況です。そして、大きな会社は賃貸管理システムのような不動産テックを導入しているケースが多く、そのなかには今後電子署名の仕組みも含まれてくるかもしれません。
そうなった場合、将来、賃貸物件の入居を希望するお客様の多くが「電子署名による契約が当然だ」と考える時代がやってくるかもしれないのです。
その場合、この潮流に後れをとってしまうと入居希望の問い合わせが減ってしまうことも考えられます。
そのため、不動産管理業務における契約書等の電子化はどの会社においても推進すべきだと言えます。
弊社の賃貸管理ソフト「リドックス」では、未だ重要事項説明書と賃貸借契約書の電子化を実施できない現在においても、更新時の契約書については、すでに電子化を可能にするオプションを備えています。
まずは契約更新から、電子化を始めてみてはいかがでしょうか。
電子契約サービスとの連携オプションについて気になる方はこちらをご覧ください。
参考:クラウドサインAPI連携オプションサービス(電子契約)
この記事は「クラウド賃貸管理ソフトReDocS(リドックス)」が運営しています。
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