2019年12月(令和元年)に中国武漢で発生が報告され、現在も世界各国で猛威を振るっている新型コロナウィルス。
東京都では、7月9日から21日連続で100人以上の感染者が確認されるなど、まだまだ油断できない状況が続いています。
こうした状況のなか、感染予防策として企業におけるテレワークの需要も急激に高まっています。
そこで、本記事では賃貸管理業務のなかでも「賃貸借契約」に絞り、「電子契約」を導入することでテレワーク化が可能になるか検討していきます。
1.そもそも「契約」とは?
まず、電子契約について紹介する前に「契約」そのものが持つ性質についておさらいします。
契約とは、当事者同士の意思表示が合致することで成立する法律行為です。簡単にいうと、お互いが合意することで、片方または双方が権利や義務を負うことを意味します。
上記のように、「契約」は法律行為ですので単なる「約束」と違い、契約者の権利・義務について法的拘束力が存在します。
契約の当事者は契約内容を守らなければならず、もし契約内容に違反すれば、その責任を負うことになります。
契約は、
AとBという契約の当事者がいたとしたら、
AがBに契約をしてもらう意思を表明し、Bがその申し入れを承諾する
ことで成立します。基本的に、契約の要件はこれだけです。
一部の例外を除いて、契約の際に使用する媒体や署名の有無は契約の要件に含まれません。
本来、「契約」は口約束でも成立するので、一般的に目にする「契約書」がなくても「契約成立」になります。
では、なぜ紙を使用して「契約書」を作成する場合があるのでしょうか。
それは、契約内容を契約書にして残しておけば、それが契約の証拠になるからです。
口約束の契約では、その内容が膨大で複雑になればなるほど、当事者の記憶や解釈が曖昧になってきます。すると、いつか互いの間に契約内容の理解に関する相違が生まれ、トラブルになることが予測されます。
また、契約内容が目に見える形で残っていないと、トラブルが発生した際に「どちらの言い分が正しいか」「本来の契約内容が何なのか」第三者が判断することができず、トラブルを解決するのが難しくなってしまいます。
そういった事態を未然に防ぐために、契約の内容を書面に残し、契約の当事者や第三者の誰が見ても等しい内容=客観的な内容にしておくべきなのです。
2.電子契約とは何か
賃貸借契約に必要な賃貸借契約書や重要事項説明書は、通常不動産管理会社やその事務所で入居者に署名してもらいます。
この際、契約書類を電子化することができたらテレワーク化の実現が可能になりますよね。
そこで現在期待されているのが「電子契約」です。
しかし、そもそも「電子契約」とはどんな契約方式なのでしょうか。
電子契約とは、電子ファイルをインターネット上で交換して電子署名を施すことで契約を締結し、企業のサーバーやクラウドストレージなどに電子データを保管しておく契約方式を言います。
つまり、「電子契約」とは「今まで書面で署名・捺印していたものをインターネット上の署名に置き換え、署名・捺印が完了した書類も紙媒体ではなく電子データで保管しておく契約方式」です。
この書類が「電子契約書」と呼ばれます。
電子契約に関して気がかりなのは「本当に契約が成立するのか」だと思いますが、これについては「電子署名及び認証業務に関する法律」において言及されています。
第三条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
ここでの大事なキーワードは「電子署名」です。
先述した電子契約の定義にもあったように、電子契約は「電子署名」を前提としているのです。
しかし、「1. そもそも「契約」とは?」で述べたように、契約を成立させるための要件に署名の有無は含まれません。
にもかかわらず、上記法律で「電子署名によって契約が成立する」ことが述べられているのは何故なのでしょうか。
実は、「電子署名」は契約を成立させるために必要なものではありません。
電子署名は以下の目的のために存在するのです。
◆契約書に記載されている作成者本人が契約書を作成したことを証明する
通常の契約書では、契約書作成者の捺印や署名によって、本人が作成したことが証明されます。
しかし、電子契約書には筆跡や印鑑を押した跡が残らないため本人が作成したかどうか不明です。
また、電子ファイルの内容や捺印は契約の部外者によって容易に改ざんできてしまいます。
電子署名のシステムは、こういった事態を防ぐようにできています。
つまり、電子署名システムは、本人が契約書を作成したこと・契約書が改ざんされていないことを証明できるよう設計されていて、上記の法律の一文である「電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。」の部分に基づいてきちんと契約が成立するということです。
3.電子署名の仕組み
さて、ここまでの内容で電子契約書が、「電子署名」のシステムによって証拠能力が確保されていることをお話ししましたが、「電子署名」は本当に信頼できるシステムなのでしょうか。
どういう仕組みかわからないものを導入するのはなんとなく不安……という方も多いと思いますので、ここでは電子署名の仕組みを簡単に解説します。
電子署名の仕組みを理解する上で重要なのが「電子認証局」「秘密鍵と公開鍵」「電子証明書」の3点です。
①電子認証局
電子契約書作成者の申請に応じて、後に説明する「電子証明書」と「秘密鍵・公開鍵」を発行する機関です。
電子証明書や鍵を発行する前に、申請者に対して本人確認を行います。
②秘密鍵と公開鍵
簡単に言えば、秘密鍵は契約書の作成者が電子契約書を暗号化する際に使用するもの、公開鍵は契約書の受け取り側が暗号化された契約書を復号(内容を確認)するためのものです。
前者の秘密鍵は、電子認証局によって契約書の作成者のみに送られます。
③電子証明書
電子認証局が、「公開鍵の所有者が電子契約書作成者本人であること」を証明するためのものです。
これの存在により電子契約書が作成者本人によって作成されたことが証明されます。
つまり、電子契約書の作成者は、自身が契約書の作成者本人であることを証明するために、第三者(電子認証局)に対して、その証明となるもの=電子証明書の発行を依頼します。
電子認証局は、依頼者の本人確認を実施した上で、電子証明書、契約書の暗号化に必要な「秘密鍵」、復号に必要な「公開鍵」を作成します。
契約書の作成者は、自分しか知りえない秘密鍵を用いて契約書を暗号化し、暗号化した電子契約書・暗号化していない電子契約書・電子証明書(公開鍵の情報が含まれている)を契約相手に送信します。
受信者は、公開鍵で暗号化した契約書を復号し、暗号化していない契約書と比較することで文書が改ざんされていないことを確認できるのです。
※厳密には契約書を暗号化する際にハッシュ関数というものを使用しますが、説明簡略化のため省略しています。
4.賃貸の契約書類は電子化できる?
電子署名のシステムを用いた電子契約が信頼度の高いものであることはわかりましたが、そもそも賃貸の契約書類は電子化してもいいのでしょうか?
書類の種類別に見ていきます。
①賃貸借契約書
いわゆる37条書面とも呼ばれる賃貸借契約書は、宅地建物取引業法第37条の規定に基づき書面での発行が義務づけられているため、基本的には電子化できません。
しかし、駐車場の賃貸借契約などは上記法律の規定に含まれておらず電子化が可能です。
②重要事項説明書
重要事項説明書もまた、宅地建物取引業法第35条にて書面の交付が義務付けられているので電子化できません。
③契約更新時の合意書
こちらについて法律等で制限はされていないため電子化が可能です。
④定期借家契約
契約時の書面化が義務づけられているので電子化できません。
5.賃貸借契約の完全電子化に向けた動き
現状、賃貸借契約の電子化はかなり難しいことがわかりました。
テレワークを目指すなら、契約時の書類をすべて電子化したいところですが、そういったことは将来的に可能なのでしょうか。
賃貸借契約の電子化において特にネックになるのが書面での交付が義務づけられている
・35条書面(重要事項説明書)
・37条書面(賃貸借契約書)
の二点です。実は、これらを電子化しようという動きがありました。
2019年10月からの3か月間、国土交通省により「重要事項説明書等(35条、37条書面)の電磁的方法による交付(電子書面)に関する社会実験」が試験的に行われ、賃貸借契約完全電子化の実現性が高まったのです。
この実験に参加登録した113社のうち17社が書面の電子化を実施し、109件行われた電子書面交付のうち91件は手続きが完了したようです。
参加社数が少なかった原因としては、賃貸契約の実務において35条書面と37条書面を電子化してもすべての電子化が完了するわけではなかったことが挙げられるのではないでしょうか。
その他の保険加入書類なども一括で電子化しなければ賃貸契約の業務が複雑になってしまうため、準備に時間がかかることが推測できます。
35条書面と37条書面の電子化に関しては、今回の実験結果を考慮して今後の方針・法改正が決まりますので、引き続き続報を待ちましょう。
まとめ
現状、賃貸借契約の電子化についてはかなり難しい状況にありますが、将来的には完全な電子化が実現する可能性があります。
書類の発送・回収業務が削減できれば、それだけで業務はかなり効率化できますし、テレワーク化も充分に可能ですので、賃貸借契約の書類電子化に関する動きには今後も注目しておく必要があると言えるでしょう。
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