入居者が退去した後のルームクリーニングや原状回復工事をしていたら、建具が水漏れによって腐食していたのを見つけたんです。
きっと、これくらいの腐食具合であれば入居中でも何かしらわかったことあったと思うんですよね。
気付いた段階で連絡をもらって対応しておけば、もう少し簡易な対応で済んだと思うんですが、この費用を退去した人に請求することってどうなんでしょう?
「退去時の現況確認時に水漏れしていたことが発覚。入居者から連絡がなかったので対応できなかったんだけど、これはどちらの責任負担になるの?」
キッチンやユニットバスなどからの水漏れが原因で、床下に浸水し土台部分が腐食してしまっていてフローリングの張り替えが必要になった場合。
入居者さんに何か気づいたことがないか伺ったところ、「入居した時(1年半前)くらいから何か湿気っているなと思っていた。初めての一人暮らしだったのでこんなものなのかなと思っていたので特に大家さんには連絡しませんでした」といった回答。
もしかしたら、すぐに対応すれば被害は軽減できたかもしれない。
こんなケースで借主に原状回復にかかる工事費用を請求することはできるのでしょうか?
原状回復における借主の責任について
まず、賃借人(借主)は入居している部屋を善良な管理者としての注意を払って使用する義務を負っています(民法第400条 善管注意義務)。例えば、日頃の通常の清掃や退去時の清掃などは借主の善管注意義務の範囲として捉えられます。
そのため、借主が故意、または過失(不注意)によって普通に利用した場合よりも大きな破損や汚損が発生してしまった場合は、善管注意義務違反によって損害を発生させてしまったということで原状回復費用を負担しなければなりません。
例えば、「冷蔵庫をおいていて、その後ろの壁が電気焼けしてしまった」ことは通常の利用の範囲とみなされ、貸主(大家さん)負担。
利用している冷蔵庫から出る「結露を放っておいて、フローリングが腐食してしまった」場合は借主負担。
といったような形で、通常の損耗については貸主負担、掃除など手入れをしなくて損耗を発生・拡大させてしまった場合は借主負担ということとなります。
また、雨漏りや水漏れなどアパートやマンションなどの借りている貸室に不具合があった場合については、速やかに管理者(大家さんや賃貸管理会社)に連絡するとともに、被害を最小限に止める努力をしなければなりません。
大家さんも不具合を直すのに迅速に対応するから、入居者さんも協力してよね。ということです。
※原状回復費用区分については、国土交通省が発行している原状回復に関するガイドライン(リンクはこちらから)に詳細が記載されていますのでご参照ください。
では、今回のケースの場合は借主の善管注意義務違反となるのでしょうか?
善管注意義務違反と原状回復費用の負担について
結論から言うの、今回のケースのような場合では借主から善管注意義務違反として原状回復費用を請求することは難しいと考えられます。
例えば床から「水漏れしてくる」であったり「天井から水滴が落ちてくる」といった明らかに目に見えるような不具合を大家さんや不動産管理会社に連絡せず、被害が拡大してしまった場合などは借主に対して善管注意義務を怠ったとして、幾分かの請求は可能であると考えられます。
しかし、床下部分など目に見えない部分の不具合を気づくというのは通常に入居しているなかでは難しい部分であり、責任を追求することはできないと考えられます。また、どうしても責任を追求するというのであれば、入居者が不具合に気づいていたけれども管理者に報告しなかったという事実を証明する必要があります。
どこまでが善管注意義務違反にあたるのかというのは、なかなか線引きの難しい判断ではあります。
原状回復費用の負担区分を追求することも大切ですが、日頃から物件のメンテナンスや点検を行いながら、不具合が発生しにくい状況を作っていくことが大切となってきます。
まとめ
ここでは、「原状回復工事に必要な費用のうち、借主の費用負担となるケースについて」「退去する人が入居時に伝えてくれたら防げたかもしれない工事部分の請求」といった内容について解説していきました。
基本的に、借主の原状回復費用の負担区分は「通常の損耗以上の劣化部分」「故意・過失で損耗した部分」の工事費用を負担するとガイドラインでは設定されています。
貸主は借主に対して「貸室を使用できる状態で提供する義務」があるように、借主は貸主に対して「善良なる管理者としての注意義務」があります。
借主は不具合を見つけたら速やかにマンションやアパートの管理会社に対してそれを報告する義務(善管注意義務)があるため、それを怠って悪化させてしまった部分は借主の負担とであると考えられます。
入居者さんの中には、入居時と退去時しか連絡をすることがないという人も中にはいらっしゃいますが、管理会社としては「いつでも連絡して大丈夫」という印象を持ってもらえるように初期対応しておくことが大切であるといえるでしょう
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