賃貸物件の価値を保つために、オーナーや賃貸管理会社が改修や修繕を行うこと少なくありません。
建物のオーナーや管理を委託されている不動産管理会社がリフォームを計画するのは当然ですが、もし、借主が勝手にリフォームを行ってしまったとしたらどうでしょうか?
借主が貸主に無断で行ったリフォームについて、貸主は原状回復費用を求めることはできるのでしょうか?
今回は「入居者が無断でリフォームをしていた場合、それらの原状回復費用は請求できるのか?」について解説していきます。
原状回復義務についてと必要費・有益費について
まず、原則としての話として、賃貸借契約において借主は契約終了時に「原状回復義務」を負っています。
原状回復とは、読んでその通り「物件をもとの状態(原状)に戻す」ことを意味します。
これは、借りた当時の原状となるため、新品同然に戻す必要はありませんが、借主が自分で取り付けた設備や意匠は当然取り外さなくてはいけません。(貸主が同意した場合は別。)
また、賃貸物件の性質や構造を変えるほどのリフォームを無断で行うことは、用法遵守義務に違反しているといえます。重度の無断リフォームについては、賃貸人と賃借人との信頼関係の崩壊に当たるといえるため、賃貸借契約の解除を求めることもできます。
入居者がお金(家賃)を払っているといっても、物件はオーナーの所有物であるため、借主は貸主の承諾を得ずにリフォームをすることは認められませんし、行った場合は原状回復に必要な費用を借主に負担させることができます。
では、入居者が長年住んでいた人で、行なったリフォームの内容(クロスの張替えやフローリングの張替えなど)は貸主が負担するべき「必要費」にあたると主張してきた場合はどうでしょうか?
クロスやフローリングの張替えは「必要費」に当たるのか?
確かにオーナーには、物件を利用収益できる状態を維持しなくてはならない義務を有しています。
そして、そのために発生する費用を「必要費」といい、これはオーナーが負担するものとされています。
第608条【賃借人による費用の償還請求】
① 賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。
では、これらリフォームもこの必要費に含まれるのでしょうか?
結論から言うと、借主による無断リフォームはこの必要費の対象にはなりません。
借主から貸主への必要費の請求が認められるのは以下のような場合です。
- 台風の日に強風で天井に穴が開いたので自主的に修繕を行ったので、工事費用を請求したい
- 給湯器が故障しお湯が出ない為、自分で修理を依頼した費用を請求したい
- ベランダの手すりが老朽化しており危険だが、オーナーが修繕をしてくれないので借主が独自に行った
上記のような、建物を保存・管理し建物の価値を維持するために必要となる費用のことを指します。
これらは本来貸主が負担するべき範囲にあたるので、それを借主が負担した場合は当然費用を請求する権利を有します。
しかし、借主が自身の趣味嗜好で行った無断でのリフォームはこれにあたりません。そのため、オーナーは必要費としてリフォーム費用を負担する必要はありません。
もし無断で行なったリフォームの内容が物件の価値を高めるようなリフォームの場合は?
ここまで説明してきたように、賃貸のリフォームは大前提として「オーナーの同意がなくてはならない」ということはご理解いただけたと思います。
しかし、借主が行ったリフォームが物件の価値を高める場合はどうでしょうか?
例えば、「IHコンロしかついていなかったキッチンをシステムキッチンにリフォームした」「トイレをくみ取り式から水洗式に変更した」など、客観的に見て明らかに物件の価値が上昇している場合は、それを残すことも可能です。
この場合、借主は有益費として貸主にその工事に実際に掛かった費用、又は増改築によって実際に増加した価値の金額のいずれかを請求することができるとされています。
※有益費の請求については基本的に貸主の同意は不要とされています。
※有益費の請求については契約の範囲内のもの、及び承諾を得て支払った有益費に限られます。
リフォームでのトラブルを防ぐためには賃貸借契約書での取り決めが大切です
近年、空き家問題の解決策として貸主に事前に同意を得ることで借主判断のリフォームを許可する「DIY賃貸」が登場し始めています。
DIY賃貸については、原状回復を行わないで、次の入居者を入居させることができるとされており、賃貸住宅に新しい可能性を見出す制度として注目を集めています。
また、賃貸物件でも自由に貸室をカスタマイズしたいという入居者のニーズは少なくありません。
原則賃貸での無断リフォームはご法度ですが、実際に貸室内に住んでいる入居者の方が細かに部屋の状態を把握できるため、借主に範囲を決めて適切にリフォームする権限を持たせることで物件の価値を維持・改善できることもあるでしょう。
借主判断でのリフォームを適切な範囲で認めることで、物件に付加価値を生み出し、他物件にない特徴を持たせることもできるというメリットもあります。
つまりは貸主がどこまで借主に裁量を持たせるかを事前にしっかりと取り決めておくことが重要になります。
前述の有益費は特約で制限することは、過去の判例(東京地裁昭和61年11月18日等)でも問題がないとされているので、借主側の一切のリフォームを認めたくないという貸主さんは、その旨を特約条項として賃貸借契約書に記載することも効果的でしょう。取り決めに反して行った改築は仮に有益性があってもオーナーは有益費の請求を認めないことができます。
逆に、カスタマイズを一定範囲認めたい場合でも、しっかりと賃貸借契約書でその範囲を明確にしておくことが重要です。
- 借主判断でリフォームができる範囲を決めておく。(壁紙の張替えやキッチンはOK。ドアやフローリングの変更はNGなど)
- 原状回復の範囲を決めておく(リフォーム範囲外の部分や既存設備については原状回復の対象とするか)
- リフォームした部分は退去時に残置してよいか、撤去すべきか。
こういった部分はしっかりと決めておくことで後々のトラブルを防ぐことができます。
まとめ
ここまで借主によるリフォームについて、お話してきました。
前提として貸主への無断でのリフォームは原則NGです。無断で行った場合は、原状回復を借主の負担で求めることができます。重篤な改築の場合は契約解除の理由になることもあります。
ただ、「賃貸でもカスタマイズをしたい」という顧客の要望を組むことで、安定した賃貸経営を実現できるかもしれません。
要は、リフォームを絶対に禁止とするか、範囲を決めて認めることで物件の付加価値とするか、はオーナーや管理会社の腕の見せ所となってくるのではないでしょうか?
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