入居申込書に虚偽(ウソ)があった場合に賃貸借契約の解除はできる?

入居後、申込書の内容に虚偽があることが発覚した場合、それを理由に契約を解除することができるか?について解説しています。

申込内容にウソがあったら契約解除はできる?
オーナーからの相談

いつも問題ばかり起こす〇〇号室の人だけど、この前、偶然話す機会があったんだけど、何か申込の時に聞いていた内容と違うんだよね。

申込書に書いている内容をみて審査をOKにしてマンションの賃貸借契約をしたのに、それが虚偽だったんだからこの解約は解除したいと思っているんだけど、どうしたらいいんだろう?

何かと問題を起こす入居者さん。
よくよく話を聞いてみたところ、どうやら審査の時に申込書に書いてあった内容はほとんど虚偽である可能性があるということがわかりました。
申込書や契約書には「本書に記載されている内容について、虚偽の事項があることが発覚した場合、当該契約は無効とする」と記載がありますが、こういったケースで、貸主は借主に対して契約解除をすることができるでしょうか?

今回は、「入居後、申込書の内容に虚偽があることが発覚した場合、それを理由に契約を解除することができるか」について解説していきます。

まずは、事実内容と申込書の確認をしましょう

まず、該当の契約者について、本当に申込書の内容に虚偽があったのかを確認することが必要です。「疑わしきは罰せず」という言葉があるように、あの人は怪しいからというだけでは、契約を解除することはできません。
もしも、裁判などになった場合にも、「申込内容が虚偽であったこと」を貸主(不動産管理会社)側が立証する必要があるため、ここは確実に調査を行う必要があります。

申込書の内容でウソをつかれやすい部分としては、「勤務先」「年収」の部分です。
審査において重要な部分である、与信(毎月の賃料を支払うことができるか)面に不安があるため、実際よりも年収を多く見せている場合や既に退職しているにもかかわらず、まだ在籍しているかのように記載してきている可能性があります。

契約を解除できるかは、その虚偽の部分の影響度の重大さ

では、実際に申込書の内容に虚偽があったことが証明できた場合、貸主(賃貸管理会社)側は借主へ契約の解除を行うことができるでしょうか?

契約解除をできるかは残念ながら「必ずできる」とは言い難く、虚偽の内容が「賃貸借契約を継続し難い重要な事由」であるかどうかという部分が判断の基準になります。
これは、申込書や契約書内に「申込書に記載した内容に虚偽があった場合は貸主は本契約を解除することができる」とあったとしても同様のことが言えます。(100%解約できるわけではない。)

では、申込書に記載している「年収」や「勤務先」に虚偽の内容があった場合、それを理由に契約を解除できるでしょうか?

年収や勤務先の記載内容に虚偽が発覚した場合は解約できる?

こちらの内容ですが、「年収」や「勤務先」の内容にウソがある程度では、それだけを理由に契約の解除をすることは難しいと言わざるをえません。
年収や勤務先に虚偽があったとしても、毎月遅滞なく家賃の入金がされていたり、特段問題を起こすことなく入居しているのでれば、契約解除はできない可能性が高いです。

申込書の内容に虚偽があって、さらに入居態度が悪かったり、家賃を何ヶ月も滞納しているなどによって「貸主と借主の信頼関係の崩壊」していると判断されて場合に契約の解除が認められます。

以下、東京都都市整備局に電話で相談してみた内容についてまとめています。

「申込書の収入額や勤務先の記載内容に虚偽があった場合、これを理由に契約を解除することはできるのでしょうか?」

「各案件のケースによって、解除できるかどうかの判断が異なるため、申込書の記載内容に虚偽があったからといって必ず契約解除をできるとは言えない。」

「どういった点が判断の基準になるのですか?」

「その虚偽の内容が、審査や契約締結での意思決定について重大な要件である場合や、今後の賃貸借契約の継続の可否に関わる事項であるかどうかなどが判断基準となるかと思います。
各案件において、その虚偽内容が解除の要件になり得るかは弁護士や司法書士の方に相談されるのが最も確実かと思います。」

「承知致しました。ご協力ありがとうございました。」

相談先:東京都都市整備局 - 不動産相談

※「賃貸借契約を継続し難い重要な事由」については、各ケースによって判断が異なりますので「収入額」や「勤務先」に虚偽があったことを理由に契約解除することが認められるケースもあります。
こちらについては、あくまで基本的な考え方として、実際の案件については法律の専門家にご相談することをおすすめします。

不動産管理会社の役割として、審査の段階で申込書の精査する必要があります。

入居審査時チェックポイント

契約締結後・入居後に申込書の虚偽内容を証明するのは非常に困難です。
そのため、契約締結するか否かの審査の段階で申し込み内容を必ず精査することが賃貸管理会社にとって求められる要素となります。もっと言えば、申込書の内容に虚偽があった場合、そのウソを見破ってくれることをオーナー(貸主)は求めています。
審査において特に確認が必要な部分は以下の3点が挙げられます。

  • 契約者・連帯保証人の勤務先の在籍確認
  • 契約者・連帯保証人の収入証明書の確認
  • 入居理由・転居理由についてのヒアリング

契約者・連帯保証人の勤務先の在籍確認

まず、本当に契約者・連帯保証人が申込書に記載の会社に勤務しているかを確認する必要があります。
本人確認の電話の後に「この後、勤務先にご連絡をさせていただきたいのですがよろしいでしょうか?」と一言断ってから、申込書に記載の勤務先電話番号に電話します。
ここで注意しなければならないのが「在籍会社(アリバイ会社)」の存在です。

【在籍会社(アリバイ会社)とは】

在籍確認の電話に対して、代理で対応を行う会社。
多くの場合、オペレーターが「〇〇は只今、外出中です。折り返すよう、お伝え致しますか?」といった形での対応が多い。

営業マンなどは外出していることが多いため、その区別が難しい場合もありますが、その場合は申込書に記載の電話番号から本人より折り返し電話をもらうなどで確認を行うことでカバーすることが可能です。
※近年では、在籍会社(アリバイ会社)の手口も巧妙化してきており、保留中に携帯へ転送や逆転送サービスなどもあり、摘発が難しくなっているのも現状です。

また、その会社が実際に存在する会社なのかも確認が必要なポイントです。
同じ住所の事務所にやたらと多くの法人が存在している場合や、現地に会社の表札がない場合は怪しいと言わざるをえません。

契約者・連帯保証人の収入証明書の確認

本当に申込書記載の収入があるのかどうかについては「収入証明」を審査書類として取得することで金額を確認することができます。
具体的に「源泉徴収票」や「確定申告書」「給与明細」「課税(所得)証明書」「雇用証明書」「内定通知書」などの書類が該当します。

ここで、見るべきポイントは「収入額」はもちろんのことですが、会社の印鑑(確定申告の場合は税務署印)があるかどうかも大切なチェックポイントです。
作成しようと思えば、ワードやエクセルで各種証明書を作成することは難しくありません。
そういった、書類偽造を防ぐためにも、捺印のある収入証明書の提出を求めるのがベターです。

入居理由・転居理由についてのヒアリング

入居理由を深堀って聞いてみると、意外な内容が聞き出せることがあります。
この入居理由をはっきりと話せない申込者さんはもしかすると何か隠していることがあるのかもしれません。
また、勤務地と対象物件の距離は遠すぎないか、入居人数と部屋の広さは適切かなど、そういった不自然な部分がきっかけで申し込み内容のウソを見破ることにつながることがあります。

まとめ

ここでは、「入居後、申込書の内容に虚偽があることが発覚した場合、それを理由に契約を解除することができるか」「入居時審査において注意するポイント」について解説していきました。

実際のところ、申し込み内容に虚偽があったとしても、必ず賃貸借契約を解除できるわけではありません。
それぞれのケースによってその判断基準は異なりますが、申込書に書いたウソの内容が「信頼関係の破壊」や「賃貸借契約を継続し難い重要な事由」であることが解除の要件となっていきます。
※具体的なケースにおける判断は専門の法律家の先生にご相談されることをおすすめ致します。

このように、虚偽があったとしても契約を解除できるかは確実ではないため、オーナー(貸主)としては審査時に不動産管理会社が申込書の虚偽を見抜いてくれることを期待しています。
勤務先への在籍の確認や収入証明書による年収の確認を行うことが必要であると言えるでしょう。

在籍会社(アリバイ会社)の存在によって、申込書の嘘を見抜くのはどんどん難しくなっていますが、賃貸管理会社として入居審査におけるノウハウの蓄積と共有が大切であると考えられます。

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