生活保護者の増加で、賃貸物件での入居者トラブルが増加しています
長引く不景気や高齢者の増加により、生活保護を受けて生活する方が増加しています。
厚生労働省が発表している「生活保護の被保護者調査(平成28年9月分概数)平成28年度9月」によると、生活保護者の総数は「1,636,902世帯」あり、実に「2,145,114人」が生活保護を受けているのです。
参考元:生活保護の被保護者調査 | 平成28年9月分概数(厚生労働省)
生活保護者の増加は賃貸管理会社とっても、関心の高いテーマではないでしょうか。
当社が運営している「クラウド賃貸管理ソフト ReDocS」のユーザー様である不動産管理会社様にも管理物件に生活保護者の方がいるということを耳にします。
これらの生活保護者を受け入れるかどうかは、賃貸事業者によって意見が別れるところです。
「生活保護者 = お金が無くて、自堕落な人」というイメージを持っている方も多く、「生活保護者の方とは絶対契約しない!」という方もいれば、一方で、賃料が国(役所)から支給される生活保護者は、滞納が起きにくて長期間入居してくれる「優良顧客」と考える方もいます。
今回は賃貸マンションやアパートなどの集合住宅の管理における生活保護者との付き合い方と、問題のある生活保護者とトラブルになった場合の対応方法についてご紹介していきます。
そもそも生活保護者の毎月の家賃(賃料)は誰が、どのように支払ってるの?
まず、生活保護者が受給する「生活保護」とはどのような制度なのか見ていきましょう。
厚生労働書は生活保護制度を以下のように定義しています。
生活保護制度は、生活に困窮する方に対し、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、自立を助長することを目的としています。
引用元:生活保護の被保護者調査 | 平成28年9月分概数(厚生労働省)
つまり、「自力で生活するのが困難な経済状態にある方を国が支援し、再度自立できる状態になるように手助けしよう。」という制度です。
そのため、「収入がなく財産もない。何らかの事情で就労が難しく、援助を受けられる親族もいない。」という基準を満たした方に国から生活の扶助がでます。
具体的に国から支給される扶助の内容は以下のとおりです。
生活保護者への扶助の内容
生活を営む上で生じる費用 | 扶助の種類 | 支給内容 |
---|---|---|
日常生活に必要な費用 (食費・被服費・光熱費等) |
生活扶助 | 基準額は、食費等の個人的費用光熱水費等の世帯共通費用を合算して算出。 特定の世帯には加算があります。(母子加算等) |
アパート等の家賃 | 住宅扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
義務教育を受けるために必要な学用品費 | 教育扶助 | 定められた基準額を支給 |
医療サービスの費用 | 医療扶助 | 費用は直接医療機関へ支払 (本人負担なし) |
介護サービスの費用 | 介護扶助 | 費用は直接介護事業者へ支払 (本人負担なし) |
出産費用 | 出産扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
就労に必要な技能の修得等にかかる費用 | 生業扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
葬祭費用 | 葬祭扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
※「生活保護制度 |厚生労働省」の内容をもとにBambooboy社が作成
賃料の支払いに関する扶助は「住宅扶助」に当てはまります。
住宅扶助の基準額は、入居する地域によって異なります。東京都23区内の場合、単身世帯であれば53,000円までとなり、同居者がいる場合は金額が増加します。原則この金額の範囲内で物件を探し、賃料を支払います。
つまり生活保護者は生活に必要なお金以外に、賃料として住宅扶助をもらっているので、無駄遣いをしなければ家賃は確実に支払えるようになっています。
「生活保護者は滞納リスクが低く、長く住んでくれる。」というようにオーナーさんや不動産管理会社が考えるのはこれが理由です。
生活保護者がトラブルを起こす入居者だった場合はどのように対応すればいいの?
ここまで話してきたように、生活保護者はマンションやアパートを管理・運営する賃貸管理事業者にとって、優良な顧客といえる面もあることがわかったと思います。しかし、生活保護者の中には、問題のある入居者の方も少なからず存在することも事実です。
例えば、精神的な病気(アルコール・ギャンブルの依存)等があり就労ができず、生活保護を受給している方の中には、お酒やギャンブルに住宅扶助を使い込んで賃料を支払えなかったり、酔っ払って近隣住民とトラブルを起こすような問題のある入居者も中にはいるようです。
このようなトラブルを起こす生活保護者に対して、賃貸管理の運営者はどのように対応すべきなのでしょうか?
生活保護者の家賃滞納(賃料未納)リスク回避には「代理納付」制度が有効です
まず、生活保護者との賃貸借契約で最もトラブルになりやすく注意をしなくてはならないのが、賃料の滞納です。
基本的に生活保護者は預金が無く収入もありません。そのため家賃滞納が発生すると、現実的に滞納分を支払うことができません。
賃料を収納代行する家賃保証会社を連帯保証人として賃貸借契約を結ぶなどの対策をとられる場合も多いですが、結局のところ本人に資力がなく、家賃保証会社であっても回収できないという事例も少なくないケースのようです。
そういった背景から、家賃保証会社も以前より生活保護者の場合、審査を厳しくしている傾向があります。
こういった、住宅扶助を他の用途に使ってしまう生活保護者に滞納を起こさせない方法として、「代理納付」という制度を活用するのが最も効果的です。
代理納付とは、生活保護受給者に住宅扶助の金額を渡さず、各地方の福祉事務局が直接オーナーや不動産管理会社の口座に家賃を入金してくれる、という制度です。
生活保護者本人にお金が渡らないので、確実に賃料を回収することが可能です。
ただし、代理納付は以下の3点について、注意が必要です。
- 過去の家賃滞納分は支払ってくれない。
- 共益費や管理費は振り込みされない場合が多い(「家賃」48,000円、「共益費」2,000円ならば、48,000円のみ振込)
- 自治体によって、適応される条件が違う。
対応している自治体であれば、住宅管理者から各地の福祉事務局所長への申請後、必要かどうかの審査が行われます。まずは、お近くの福祉事務局に申請についてお問い合わせするのがいいでしょう。
他の入居者とトラブルを起こす生活保護者への対応はどうしたらいい?
では、家賃の支払いに問題がない場合でも、昼から飲酒をして騒ぐ、暴れる等、他の入居者に迷惑をかける生活保護者の場合はどうするべきなのでしょうか?
まず、放置するのは絶対に行ってはいけないことです。酒を飲んで徘徊する、奇声を上げる、などの問題行為を放置することは他の入居者の使用収益を損なうことになります。
オーナーから賃貸物件を任されている不動産管理会社には、トラブルを解決するように努める必要があります。
特に生活保護者は住宅扶助の制限額があるため、条件にあった賃貸物件からなかなか退去しようとしません。問題のある状態を放置すると延々と居座られ、他の問題ない入居者の方が退去してしまうという事態を引き起こしかねません。
このようなケースの解決方法として、本ブログの【「発生率NO.1」入居者間の騒音トラブル!貸主の責任はどこまで発生する?】の記事でも触れましたが、賃貸借契約書には、原則「賃借人は騒音などにより、近隣へ迷惑を掛けないようにする」という旨の項目があり、これに違反することは「用法遵守義務」に違反しているといえます。
過去の裁判例でも、近隣住民が退去するほどの騒音や嫌がらせがある場合は、「信頼関係を崩壊した」といえるだけの事由になると判断し、用法遵守義務違反を理由に解約を認めたケースもあります。
ただし、借地借家法の「借主保護」の観点から、騒音や近隣トラブルを理由に貸主側から契約解除するのは非常に難しいのはご存知かと思います。賃料の支払いに問題がない場合は、根気強く注意を繰り返し、改善がない場合は裁判で明渡しを求める、という解決策しか方法がない場合も少なくありません。
生活保護者が原因でトラブルが発生している場合、ケースワーカーや福祉局へ相談する
では、交渉をしても改善しない、または話が通じないような入居者の場合で、「裁判を起こすのは...」と躊躇される方は役所や福祉局に相談してみることをおすすめします。
生活保護を受給している人には必ず担当のケースワーカーがついているため、担当している生活保護者の行動が原因で入居者が困っているということを伝えることで、地域を所管する福祉事務所やケースワーカーから改善に向けて行動してくれることが考えられます。
今回は、本ブログを運営する「クラウド不動産管理ソフトのリドックス」の最寄りの港区福祉事務所(赤坂地区総合支所)に実際に相談をしてみました。
以下、アルコール中毒で騒音を出す問題のある入居者がいた場合の対応方法について伺っています。
まず、原則としては担当のケースワーカーへの相談が最初にやっていただきたいこと。
ケースワーカーが担当している生活保護受給者が実際に問題行動(今回であれば度を超えた飲酒に依る騒音)を行っているという確認が取れれば、訪問し、受給者との間で話し合いの場を設けて改善に向けた努力はしていきたい。
例えば、「何らかの精神的な病気や問題がないか?」「医療機関を受診しているか?」などを確認し、適切な解決策を探したい。
ただし、100%の改善を約束することはできないし、ケースバイケースで対応は変わる。東京都港区福祉事務所(赤坂地区総合支所) ご担当者様談
やはり、ケースバイケースで対応は変わるということですね。
ここからは筆者の自論になりますが、生活保護者のトラブル解決には、福祉局のケースワーカーさんと良好な関係を築くことが非常に重要なのではないでしょうか?
ケースワーカーは立場上、担当生活保護者の立場に立って活動するので、マンションやアパートの賃貸管理を行っている不動産会社とは目的や利害が一致しないこともあり、感情的になってケースワーカーとトラブルになったというケースもあるようです。
まずは、しっかりと情報交換を行い、担当の生活保護者がいかに問題のある行動を起こしているかを説明しましょう。
例えば、今回のようなアルコール中毒で酔っ払って騒音を出すようなトラブルの場合では以下のように説明すると良いでしょう。
- 飲酒が明らかに度を越しており、近隣住民に大変な迷惑を掛けている
- 近隣住民からも退去させて欲しいと署名をもらっている
- 酔っ払っている歳の騒音や奇声を録音しデシベルを計測する(一般的に40〜60デシベルを越える騒音は受忍限度を超えていると認定されます。)
その後の対応は福祉局によって変わってきますが、精神的に病気があると判断した場合は入院の手配をしてくれたり、引っ越し費用を負担して退去させてくれるという事例もあります。
生活保護者との賃貸借契約はトラブルのリスクがあることを把握しておきましょう
今回は。「生活保護者の入居する物件の賃貸管理とトラブル発生時の対応方法について」を解説してきました。
前述の通り、生活保護の受給書はここ数年で非常に増えており、それに伴うマンションやアパートなどの不動産管理の現場でのトラブルも増加しています。
賃貸経営を行う事業者としては、生活保護者を受け入れるのか?受け入れないのか?受け入れるのであれば、どのような制度やトラブル回避の方法があるのか、をしっかりと認識しておく必要があるのではないでしょうか?
この記事は「クラウド賃貸管理ソフトReDocS(リドックス)」が運営しています。
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