賃貸マンションやアパートに楽器演奏による騒音トラブルはつきものです
賃貸マンションやアパートの入居者トラブルで最も発生律が高いのが「騒音に関するトラブル」です。
「一般財団法人 不動産適正取引推進機構」による賃貸管理会社へのアンケートの調査を行った結果、「最も問題が多い入居者トラブル」として回答が多かったのは「騒音に関するトラブル」でした。
出典URL:RETIO83号 Ⅱ.賃貸住宅管理アンケート - 一般財団法人 不動産適正取引推進機構
※「RETIO 83号 Ⅱ.賃貸住宅管理アンケート」の内容をもとにBambooboy社が作成
また、騒音トラブルの原因としてよくあるケースとして以下のような内容が挙げられるのではないでしょうか?
- 上階や隣の部屋の足音がうるさい
- 大声で話す
- 大音量でのテレビ・オーディオの使用
- 掃除機・洗濯機など家電の動作音
- ピアノやギターなどの楽器の演奏音
- ペットの鳴き声
この中でも、入居者間の騒音トラブルで、大きな問題になりがちなのが「楽器の演奏」です。
部屋の中にピアノやギターなど楽器を演奏したいという入居者からのニーズは多く、近年は完全防音をウリにした楽器演奏可能な物件も増えていますが、やはりそういったマンションやアパートでは賃料が割高となってしまい、最終的には楽器不可の賃貸住宅に引っ越してしまうという方もすくなくありません。
そのため、防音対策を行っていない普通のマンションやアパートにピアノなどの楽器を持ち込んで、大家さんや管理会社には黙って演奏する入居者は少なくありません。
今回は、楽器演奏を無断で行う入居者がいた場合の「賃貸管理会社がとりうる対応」と、「改善がない場合は契約解除は可能か?」について解説していきます。
「楽器可」の賃貸物件以外では貸室内での楽器演奏は、原則として認められません。
賃貸マンションやアパートの不動産管理会社の方からすると当然のことですが、そもそもマンションやアパートなどの集合住宅では許可されていない限り、賃貸物件での楽器演奏は原則禁止です。
下記の表は、「東京都環境局」がまとめた騒音の原因となる原因の音の大きさを一覧表にしたものです。
出典URL:生活騒音の現状と今後の課題 - 環境省
音の大きさ(デシベル) | ||
---|---|---|
家庭用設備 | エアコン | 約41デシベル~59デシベル |
温風ヒーター | 約44デシベル~56デシベル | |
換気扇 | 約42デシベル~58デシベル | |
風呂又は給排水音 | 約57デシベル~75デシベル | |
家庭用機器 | 洗濯機 | 約64デシベル~72デシベル |
掃除機 | 約60デシベル~76デシベル | |
目覚まし時計 | 約64デシベル~75デシベル | |
電話のベル音 | 約64デシベル~70デシベル | |
音響機 | ピアノ | 約80デシベル~90デシベル |
エレクトーン | 約77デシベル~86デシベル | |
ステレオ | 約70デシベル~86デシベル | |
テレビ | 約57デシベル~72デシベル | |
その他 | 犬の鳴き声 | 約90デシベル~100デシベル |
子供のかけ足 | 約50デシベル~66デシベル | |
ふとんをたたく音 | 約65デシベル~70デシベル | |
車のアイドリング | 約63デシベル~75デシベル | |
人の話し声(日常) | 約50デシベル~61デシベル | |
人の話し声(大声) | 約88デシベル~99デシベル |
※「生活騒音の現状と今後の課題」の内容をもとにBambooboy社が作成
図を見れば、やはりピアノ、エレクトーンなどの楽器の音の大きさは他の生活音に比べて、大きいことがわかります。このようにピアノなどの楽器の演奏は、足音や会話、電化製品の動作音などの「生活音」と違い、楽器演奏音や振動、鍵打音などは「社会通念上、隣室の住人に迷惑をかける行為」、つまり「騒音を発生している」といえます。
では、どれくらいの音量であれば「騒音」とみなされるのでしょうか?
こちらも環境省から「騒音に係る環境基準について」という内容が公表されていますのでご紹介します。
出典URL:騒音に係る環境基準について - 環境省
地域 | 基準値 | |
---|---|---|
昼間 | 夜間 | |
療養施設、社会福祉施設等が 集合して設置される地域など 特に静穏を要する地域 |
50デシベル以下 | 40デシベル以下 |
専ら住居の用に供される地域 主として住居の用に供される地域 |
55デシベル以下 | 45デシベル以下 |
相当数の住居と併せて 商業、工業等の用に供される地域 |
60デシベル以下 | 50デシベル以下 |
※「騒音に係る環境基準について」の内容をもとにBambooboy社が作成
上記の表のように、一般的な住居地域では昼間は55デシベル、夜間は45デシベル以上の音の大きさは「騒音」とみなされると考えられます。
ピアノなどの楽器を演奏する音は基準値を大きく超えてしまうため、賃貸マンションやアパートといった集合住宅では「楽器演奏不可」ということが原則として捉えられています。
楽器の使用は原則として禁止ではありますが、賃貸借契約書には「楽器不可」と明記することが必要です。
上述の通り、楽器演奏は「騒音」と見なされる場合が多く、原則としては集合住宅での演奏は禁止であると言えます。
しかし、契約時には「楽器使用不可であること」を説明するともに、「契約書内への明記」が不可欠です。
例えば、国交省が作成している「賃貸住宅標準契約書」では、借主に禁止する事項として以下のような条文を設けています。
「楽器演奏不可」の大音量でテレビ、ステレオ等の操作、ピアノ等の演奏を行うこと。
出典URL:賃貸住宅標準契約書について - 国土交通省
これは、前述の「賃貸での楽器演奏は原則禁止」という賃貸業界の常識が通じない人がいる場合の防衛策といえます。つまり、「契約書に楽器演奏不可と書いてないなら楽器を演奏してもいい」と判断するような非常識な入居者に遭遇したときを想定して、事前に対策をしておくということです。
賃貸借契約で楽器使用の禁止や楽器持ち込みを禁止するという条文を設けることは可能ですので、もし、そのような条文を設けていないなら、追加することをおすすめします。
楽器不可の賃貸マンションで無断で楽器を演奏する入居者が居たらどうするべき?
賃貸借契約書でしっかりと楽器の演奏を禁止したとしても、それを守らない入居者が現れる可能性はあります。
また、電子ピアノや電子ドラムなど、ヘッドフォンをつければ音を外部に漏らさない楽器もあり、「電子楽器ば問題ない」と主張する人もいるでしょう。
こうした入居者を放置してしまうと、当然ながら他の入居者にとっては大変なストレスとなります。
騒音を理由に物件を退去してしまったり、はたまた原因の入居者に直接抗議をして、さらなるトラブルに発展したりということが考えられます。
電子ピアノなら賃貸マンションでも演奏できる?
楽器の騒音トラブルでよく疑問になるのが、電子ピアノやエレキギター、電子ドラム、エレクトーンなどのヘッドフォンやイヤフォンに繋ぐことで楽器の演奏音を外部に漏れなくすることができる楽器です。
こういった楽器はグランドピアノやアコースティックギターなどと比べれば騒音が小さいのは事実なので、賃貸物件でも使用して問題ないと考える入居者も少なくありません。
こういった電子ピアノなどの消音機能がある楽器の取り扱いは、多くの場合貸主(大家さんや管理会社)によって判断が異なる場合が多いようです。
「大きな音を出さないなら許可する」とする場合や、「楽器禁止」と賃貸借契約書に記載しているから「消音しても楽器は楽器」として禁止すること場合もあります。また、案件ごとの対策案として、防音用のカーペットやクッションを設置することを条件に承認する場合もあります。
ただし、注意しなくては行けないのは、消音をしたとしてもドラムの打撃音やピアノの鍵打音、ペダルを踏み込む際の振動は他の部屋に響くということもあるのです。
消音ができる電子ピアノなどでも、徹底して禁止する場合は禁止の対象とする方が安全ではないでしょうか。
騒音トラブルの発生時は不動産管理会社が率先して対応を
賃貸マンションやアパートなどの集合住宅で騒音トラブルが発生したときに最も不動産管理会社として気をつけなくてはならないのが、入居者同士の直接交渉で事態を解決させようとしてしまうことです。
当事者同士の話し合いは感情的になりやすく、より重大なトラブルの原因となりかねません。
(事実賃貸マンションでの楽器演奏が原因でトラブルとなり殺人が起きたケースもあります。)
また、賃貸マンションで多いのが「音の発生源の勘違い」です。特に電子楽器の振動音は壁から伝わるので、実際の振動の発生元の部屋とは違う方向から伝わることも少なくありません。
まず、騒音が発生したら入居者には直接苦情をさせず、物件の管理会社に連絡をするように掲示物や入居のしおりなどで知らせて置くべきでしょう。
何度、注意をしても楽器の無断演奏を繰り返す入居者との契約は解除できるのか?
それでは、楽器演奏不可の賃貸アパートやマンションで楽器を無断で演奏する入居者が居たら契約は解除できるのでしょうか?
この問題でポイントになるのは、以下の3点です。
- 契約時に楽器の使用を禁止することを伝えているか?
- 楽器の演奏を知りながら黙認したことがないか?
- 演奏を何度も注意しているか?
まず、前述の通り賃貸借契約の締結時にしっかりと「楽器の演奏・持ち込みは不可である」ということを明記しましょう。
確実に賃貸借契約書に明記することで退去を求めることに正当性を持たせることができます。
続いて、この契約者が楽器を無断で演奏している際に「しっかりと注意しているか?」が重要になります。
ペットの無断飼育でもそうですが、明らかに契約内容に違反している行為を行っていることを知りながら放置していしまうと「その違法行為に同意(黙認)した。」とみなされることがあるのです。
これを「黙示の承諾」といいます。
最後に楽器演奏に対する注意をこれまでに何度もしていることも重要になります。
楽器の演奏を賃貸借契約書で禁止している以上、一度でも演奏をすれば契約違反です。
しかしご存知の通り、賃借人(借主)は借地借家法や消費者契約法などで保護される対象であるため、一度の契約違反程度では貸主から一方的に契約を解除することは難しいです。
そこで、何度も楽器の演奏を注意しているが一向に改善しなかった場合、これを「信頼関係の破壊」の理由として契約解除を求めるべきでしょう。
楽器演奏による騒音トラブルを防ぐためにも、管理会社の毅然とした対応が必要です
今回は無断の楽器演奏によるトラブルと契約解除についてご説明してきました。
無断での楽器演奏を理由として契約を解除する場合、一度の違反行為での解除は難しいということが現実です。何度も注意して、他の入居者からも同様の声が多数上がっているにもかかわらず、改善がしないことが重要ということです。
しかし、忘れてはならないのが実際の賃貸マンションやアパートなどの共同住宅には他の入居者の方も居住しており、その人を追い出すまでの間に他の入居者の方が出ていってしまうというリスクがあることです。
そこでこういった事態を防ぐためにも、契約の締結時にしっかりと取り決めを交わすこと、そして、トラブルが発生したときは管理会社として毅然とした対応をとりましょう。
楽器の演奏は他の騒音トラブルに比べて、入居者の「すこしくらいなら大丈夫かな?」といった軽い思いから発生しやすいトラブルの一つでもあります。
賃貸管理会社としては、大きなトラブルになる前に毅然とした対応を取ることが重要です。
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