あなたは自社で管理している駐車場で事故や当て逃げ、置き引きや車上荒らし、窃盗などのトラブルが発生したことはありますか?
このような事故や窃盗の時に、しばしば被害者が「駐車場の管理責任があるんだから賠償して!」と貸主に主張してくることがあります。
果たして、駐車場の所有者である貸主又は管理者である賃貸管理会社は管理者責任として、費用を負担する必要があるのでしょうか?また、看板に「当駐車場において発生した事故・盗難について、管理者は一切の責任を負いません」という看板を設置した場合、それは有効なのでしょうか?
今回は、「駐車場における所有者や不動産管理会社の管理責任」や「看板の効力」について解説してきます。
駐車場の契約における貸主の義務
まず、駐車場の契約においての貸主と借主の関係を考えてみましょう。
貸主と借主は「駐車場を一ヶ月〇〇円で貸す」という賃貸借契約を結んでいる事になります。
よって貸主は借主が駐車場の賃料を得る対価として、「その土地や場所(区画)を駐車場として利用できるようにする義務」が発生します。
民法第601条(賃貸借)
賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
つまり、駐車場の管理者の責任は「駐車場の利用者が駐車場を駐車できるスペースとして利用できる状態を維持する」ことといえます。
よって、無断駐車などの借主が駐車場を利用できない状態を起こすトラブルについては、それを排除するように務めなくては行けません。
駐車場で発生したトラブルに対して管理会社は責任を負う場合はあるのか?
では、駐車場内で発生した事故や窃盗などのトラブルについて、駐車場の貸主や管理会社はその責任を負わなくてはならないのでしょうか?
ここからは、窃盗(車上荒らしや置き引きなど)と事故(自動車の事故や怪我など)それぞれの場合についての対応をご紹介していきます。
駐車場内で"窃盗"が発生した場合の貸主や管理会社の責任について
まず言うまでもなく、窃盗は刑法上の窃盗罪にあたります。よって発生した損害の賠償責任は窃盗の加害者であり、加害者が捕まればその盗んだものを返してもらうことができます。
しかし、現実的に犯人が見つからない場合は、被害者としてはなんとか駐車場の管理責任を問いたいところになります。
ひとことに「駐車場」と言っても、ただの空き地を無料で駐車できるように解放している場合や、月極駐車場やコインパーキングのようにお金を支払って駐車場を利用しているケースなど様々な種類があります。
そして、駐車場の管理者責任を問われるかどうかは、その「駐車場状態と契約時の内容」によってきます。
- 防犯設備の充実を特徴としており、監視カメラ等の防犯設備を設置して、借主もそれを理由に契約していた。
- 車のカギを預かる等、自動車の管理・保管の責任を負っていた。
①のような防犯設備の良さを条件に契約していたが、実際はそうではなかった(監視カメラがダミーだった等)などの場合は、駐車場の管理責任を問われる可能性はあります。
また、②の様に他社の財産を預かる行為は「寄託」と呼ばれ、寄託契約を結んだ場合には、預かる側には「善管注意義務」が発生します。
これは無償の場合でも一定の善管注意義務があります。
民法第659条(無償受寄者の注意義務)
無報酬で寄託を受けた者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負う。
つまり、駐車場の管理者の管理体制に不備・過失があり、その結果、駐車場内で窃盗が発生した場合はその責任を負わなくてはいけません。
しかし、逆にそういった防犯設備などなく、カギも預からず、普通の空き地を駐車場として扱っているような場合、貸主と借主の間に「賃貸借契約」又は「使用貸借契約」があるにとどまるため、その財産を管理する責任はありません。
よって、基本的には平置き駐車場などにおける窃盗行為に対して、所有者や不動産管理者は責任を問われることはないでしょう。
もし、不動産会社の管理する駐車場で実際に被害が出てしまった場合、被害者の方も犯人が見つからず困ってしまって、なんとかしてほしいという意味で貸主や管理会社の管理責任を指摘している場合が多いと考えられます。
そのため、あまり無碍に突っぱねるのではなく、「お察ししますが、契約的にそれは違うんですよ。」と誠意を持って対応するのが良いでしょう。
駐車場内で"事故"が発生した場合の貸主や管理会社の責任について
では、駐車場内での自動車事故や怪我に関してはどうでしょうか?
まず、交通事故は法律的には民法709条の不法行為にあたります。
民法第709条(不法行為)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
この民法第709条に則って、事故を起こした場合、発生した被害を賠償する責任は事故の加害者にあります。
つまり事故による損害賠償は基本的には当事者間で解決するのが原則です。
しかし、駐車場の貸主や管理者に事故の原因について管理者側に責任がある場合はこの限りではありません。
民法第717条1項は以下のように定めています。
民法第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
つまり、駐車場として使用するために必要な工作物にその設置や管理状態が安全性を欠いていて、その結果事故が発生した場合は、その責任を占有者(管理している者)又は所有者が負わなくてはならないのです。
具体的には以下のような事例があります。
- 駐車場内のマンホールが閉まっておらず、後輪がはまって車体に傷がついた。
- 駐車場の柵やフェンスが一部破損しており、車を擦ってしまい傷がついた。
- 駐車場の入り口が非常に狭く見通しが悪いのに、ミラー等を設置しておらず追突事故が発生した。
- 車止めの位置が極端に後ろにズレており、駐車時に後方の看板に激突してしまった。
- 小学校と併設しており、子どもが飛び出す可能性が十分想定できるにも関わらず、注意喚起等の対策を何も行っていない。
このような駐車場の設備に問題があり、事故が発生してしまった場合は、駐車場の占有者(管理会社)又は所有者はその事故によって生じた損害を被害者から損害賠償請求される可能性があります。
駐車場内に「責任は一切負いません」と書いた看板は有効か?
では、駐車場でよく見る「当駐車場での、事故、お客様同士のトラブルについて、一切の責任を負いません」と書かれた看板に効果はあるのでしょうか?
前述の設備に問題がある場合でも、看板で「責任を負いません」と書いておけば、責任を問われることはないのでしょうか?
これについては結論から言いますと、ほぼ効果がありません。
なぜなら前述のとおり、管理者の故意・過失によって発生した事故についてはその責任を負わなくてはなりません。看板で免責事項を作っても無効です。
さらに、消費者契約法の観点からも、賃料や使用量を徴収しているため、駐車場の貸主は「事業者」に該当します。消費者契約法第10条より、駐車場の利用者にとって一方的に不利な契約は無効を主張できます。
消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
民法 、商法 (明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
つまり、土地工作物の管理者責任を定める民法717条の内容に反する看板の内容は当然無効となります。
こういった看板が有効なのは、空き地を自由に駐車できるスペースとして、特段の契約などを結ばずに貸し出している場合等、無償で提供している場合のみです。
このような場合は駐車場の所有者と使用者の間には賃貸借契約も使用貸借契約も存在せず、また管理者は「事業者」ともいえません。そのため、自由なルールを作って、それに同意した上で駐車しているとみなされる為、管理者はその責任を問われることはありません。
まとめ
今回は駐車場における事故等のトラブルについて、貸主が負う責任についてご紹介してきました。簡単に内容をまとめると以下の内容になります。
- 窃盗の場合、カギを預かる、防犯設備の充実を条件としている場合は、管理責任を問われる場合がある。
- 事故の場合、駐車設備の故障や想定し得る危険に対し、対応処置を取っていない場合、それを原因に発生した事故は責任を問われる可能性がある。
- 管理者に責任がある場合の事故や窃盗に対して「責任を一切負いません」の看板は通用しない。
窃盗や事故の「当事者同士で解決する」というのが原則ではありますが、管理者にも責任を問われる場合があるということは知っておくべきでしょう。
駐車場の所有者の方や管理を委託されている管理会社の方は、管理している駐車場の設備が問題がないか、定期的に確認しておく必要があるのではないでしょうか?
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