もしもマンションの入居者が逮捕されてしまったら、賃貸借契約は解除できるか?
自社で管理している賃貸マンションやアパートの入居者が逮捕されてしまった場合、不動産管理会社やオーナーさんは一体どのような対応をとればいいのでしょう?
「逮捕なんて自分には関係ない。」と思う方も多いでしょうが、警察庁の発表では平成27年に検挙された総数は357,484件と決して少ない数字ではありません。
あなたの管理物件の入居者が逮捕者になる可能性は決してゼロではないのです。
実際のところがわからなくても「マンション内で逮捕者が出た」というだけでも物件内に不安が走るのに、もしもニュースで大々的に報道されるような事件に関与している場合などであれば、マスコミによる報道被害など他の入居者への迷惑も考えられます。
貸主や不動産管理会社からすれば、「一刻も早く退去して欲しい!」と思うのが本音ではないでしょうか?
では、もし自社で管理しているマンションやアパートなどの入居者が逮捕されてしまった場合、「逮捕を理由に賃貸借契約を解除」することはできるのでしょうか?
それとも賃料の支払いや素行に問題がなければ、逮捕だけを理由に契約解除や退去はできないのでしょうか?
また、逮捕期間中に部屋に残された残置物の処理はどうすればいいのでしょう?
今回は賃貸管理事業者なら知っておきたい、「入居者が逮捕されてしまったときの対応方法」をご紹介します。
逮捕されたことを理由として大家さんは賃貸借契約を解除可能か?
まず、「逮捕された時点」で賃貸借契約を解除することは可能かについて解説していきます。
他の入居者の方が安心して生活するためにも、犯罪を犯したかも知れない人にはできるだけ出ていって欲しいと思うのは自然なことでしょう。
しかし、「逮捕された」という事実だけでは賃貸借契約を解除することはできません。
なぜなら、逮捕された人でも、「裁判で有罪判決を受けるまでは無罪とみなす」という法律の大原則があるためです。
法律用語になりますが、これを「無罪推定の原則」といいます。
逮捕に限らず他の事案でも同様ですが、貸主側から契約を解除するには、賃貸借契約を継続できない「信頼関係が崩壊」しているとみなされる理由が必要になります。
有罪判決を受けるまでは入居者は無罪であるとされているので、逮捕された事実のみでは賃貸借契約を継続できない「信頼関係の崩壊」に当てはまるとはいえません。
よって、逮捕されたということだけで、貸主から一方的に契約を解除することはできません。
逮捕された入居者との賃貸借契約を解除するかどうかは、判決が下されて、犯罪行為の種類や内容が確定してからでなければならないのです。
また、仮に有罪判決となっても、非常に軽微な罪の場合は賃貸借契約を解除することは難しいでしょう。
逮捕を理由に賃貸借契約を解除できる特約がある場合、その特約は有効か?
では、仮に賃貸借契約書で、「借主が逮捕・勾留された場合、貸主は何らの催告も要せずして、本契約を解除できる」といった内容の契約条文や特約を結んでいた場合はどうでしょうか?
結論から言うと、契約書内の記載や特約がある場合であっても「逮捕された時点で契約を解除することは難しい」と言わざるを得ません。
契約解除が困難な理由としては、前述の「無罪推定の原理」があるため逮捕を理由に賃貸借契約を解除できるとする契約条項や特約は「消費者契約法第10条」に抵触すると考えられるためです。
消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
民法 、商法 (明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
但し、特約を結んでおくことで、以下のような場合は、無催告で契約を解除できる可能性があります。
- 同一物件の他の入居者に暴行や盗撮などの犯罪行為を行った場合
- 殺人・暴行(暴力行為など)・放火・強姦などの凶悪犯罪を犯した場合
- 暴力団関係者との繋がりがある犯罪行為の場合
上記のような迷惑行為が明白である場合「信頼関係が崩壊している」とみなされ、無催告で賃貸借契約を破棄することが可能となるケースと考えられます。
判決前に逮捕された入居者と賃貸借契約を解除することは可能か?
ここまでで、契約条項や特約の有無に関わらず、「逮捕された時点ですぐに賃貸借契約を解除することは難しい」ということはご理解頂けましたか?
では、有罪判決が出るまでは貸主は賃貸借契約を解除できないのでしょうか?
ここからは、実際に契約解除をするためには、どのような方法があるのかを紹介していきます。
契約者に契約解除に合意して退去(契約を解約)してもらう
まず、当然ですが、借主と賃貸借契約の解除について合意すれば可能です。
これを「合意解除」といいます。
一般的に逮捕された方は、裁判が行われ判決が下るまでは刑務施設に勾留されます。
拘留されている期間は当然ながら貸室は使用できませんし、判決次第では何年間も戻れない可能性もあります。
貸室を使用不可能な状況であれば、退去をお願いすればすんなりと受け入れてくれる場合も多いでしょう。
合意解除の場合は、逮捕の直後でも、勾留中でも、双方が合意をすれば可能です。
そのため判決が出るまで待つ必要性はありません。
契約者が契約解除に同意しない場合
では、入居者が契約解除(解約)をお願いしても、同意してくれない場合はどうすればいいでしょうか?
このような場合の対応例として多いのが、賃料の滞納を理由に契約を解除する方法です。
ここでは、「賃料の支払い状況がどうなっているか」が重要になってきます。
賃料を滞納している場合
賃料が銀行振込や手渡しの場合、逮捕されて拘留されている状態では家賃を支払うことができません。
一般的に3ヶ月以上滞納をすれば解約事由(信頼関係の崩壊)にあたりますので、滞納賃料の請求を内容証明で催告し、期日までに支払いがなければ、訴訟手続きを経て賃貸借契約を解除できます。
賃料を滞納がない場合
毎月の賃料が口座引落やクレジットカードなどでの支払いになっている場合や、保証人や保証会社が賃料を代位弁済する場合は滞納が発生しない場合も考えられます。
保証会社の場合、大半が入居者の逮捕を賃料保証の「免責事項」としている場合が多いため、家賃保証会社が逮捕の事実を知れば代位弁済をやめる可能性が高いです。
ただ、本人の口座からの家賃の引き落としが続く場合や、連帯保証人が賃料を支払ってでも貸室の契約を残したいという場合は、判決が確定するまでは賃貸借契約を解除することは難しくなります。
つまり、判決が下る前に賃貸借契約を解除するためには、以下の2点が重要になります。
- 入居者が契約解除(解約)に同意を得ることができるか?→合意解約による契約の終了
- 賃料の滞納があるかどうか?→明渡訴訟による契約の終了
逮捕・拘留された契約者に有罪判決が降りた後の契約はどうなる?
では、逮捕された入居者が有罪だった場合に、判決が下り刑期が確定したあとはどのような対応になるのでしょう?
まず、刑期を考えて賃貸借契約を継続する必要性があるかを契約者と相談するべきでしょう。
数年、数十年に渡る長期の刑期が課された場合、契約者としても解約する方が合理的と判断する場合も多いでしょう。
刑期が短期間の場合は、入居者によっては服役後に戻りたいと主張される場合も考えられるため、そこは事件の内容を加味して判断することになります。
どうしても追い出したいという場合は、契約解除の催告後、明渡し訴訟をして退去を勝ち取るという方法となるでしょう。
要注意!逮捕された契約者の残置物の処分について
賃貸物件で入居者が逮捕された場合に最も行ってはいけないことが、勾留中、または服役中に勝手に入居者が貸室に残した荷物(残置物)を処分、または撤去してしまうという行為です。
入居者には残置物の所有権があるので、それを無断で処分・持ち出し等することは許されません。
もし無断で撤去などを行った場合、後々その金額を損害賠償請求される可能性が非常に高いです。
※無罪・有罪、犯罪の重大さに関係はありません。
残置物の処理に関しては、入居者が退去に合意してくれた場合は、「明渡しの同意書」と同時に「残置物に関する所有権放棄の合意書」「残置物の処分同意書」を取り交わしましょう。
これで、貸室内の荷物を貸主の判断で処分することが可能になります。
※警察の捜査が完了する前に残置物を処分すると操作の妨害になってしまうことがあります。警察への確認も行いましょう)
前述の退去に応じない場合は、明渡し請求後に強制執行を持って残置物を処分するしかありません。
つまり、所有権者の同意か、裁判所の許可がない限り、残置物を勝手に処分することはできないのです。
契約者が逮捕・拘留された場合、まずは一刻も早く本人と面会しましょう。
ここまで、賃貸物件の契約者が逮捕された場合の対応法を紹介してきました。
賃貸管理会社や大家さんは、まず速やかに本人と面会し、犯罪行為の事実確認や賃貸借契約を継続する意思があるのかを確認しましょう。
解約を希望する場合は、契約の解除と残置物の処分に関する合意を取り交わしましょう。
接見禁止などで本人と面会ができない場合は、連帯保証人さんに相談してみるのも良いでしょう。
「逮捕された=犯罪者ではない」ということをしっかりと認識し、他の入居者の方への影響を考えながら、スムーズな対応ができるように事前知識を持っておくことが大切です。
この記事は「クラウド賃貸管理ソフトReDocS(リドックス)」が運営しています。
私たちは、「不動産管理ソフトを活用することで解決できる課題」だけでなく「不動産管理に関わる全ての悩み」を対象として様々なことをお伝えしていきます。