老朽化した建物の修繕の場合でも、現入居者に立退料は払わなくてはならないか?

老朽化を理由とした改築・リニューアルなどの大家さんとしては正当な理由がある場合でも、立退料は必要なのでしょうか?

立ち退き料について

所有されている不動産の老朽化はオーナーにとっては避けては通れない問題です。

新築の時はどれだけ立派な建物でも、どうしても月日とともに老朽化してしまいます。老朽化が進むと入居者は建物の美観は低下し、入居者も入りずらくなり、賃料も下がり、それに応じて入居者の質も低下していまいます。
そのため、平均して約3割の物件が築30年前後で一度リフォームや改修を行っています。

しかし、リフォームを行う場合、当然ですが入居者の方たちには出て行ってもらう必要があります。
この入居者との立ち退き交渉に関するトラブルは非常に多く、関係がこじれると大きなトラブルに発展することも少なくありません。

こうしたトラブルの解決策としてよく聞くのが、「立退料」を支払うということですよね。
では、果たして老朽化を理由としたリフォームのような大家さんとしては正当な理由がある場合でも、立退料は必要なのでしょうか?
もし、必要だとしたらその相場はどのくらいになるのでしょう?

今回は調べても意外とはっきりとした正解がない立退料の相場についてご説明します。

立退料とは?

普通借家契約の場合、借地借家法で「貸主から賃貸借契約の解除をする場合は、1年〜6ヶ月の猶予が必要」とされています。また、さらに、ただ6ヵ月前に通知するだけでは十分ではなく、立ち退きを要求するに足りる「正当事由」が必要とされています。

これは日本の借地借家法では、借主は強く保護されており、仮に借主に問題があったとしてもすぐに立ち退きを求めることはできないのです。

借主と貸主が退去について合意できない場合、貸主の立ち退き要求が正当事由かは誰が判断するのでしょう?
これは、裁判所が正当事由として認められるかを、以下の3点から判断します。

  • 賃貸人又は賃借人が建物を必要とする事情
  • 建物の賃貸借に関する従前の経過(用法を順守しているか、賃料を適切に払っているか)
  • 建物の利用状況および現況(老朽化しているなど、建物自体の状態)

借主と貸主が立退きについて、合意できない場合は、裁判所が上記3点を鑑みて正当事由に当たるかを判断します。
そして正当事由があるとは言えないときに、そもそも立退きが認められない場合もあります。

つまり、立退料は貸主と借主が金銭なしで立退きに合意すれば必ずしも必要ありません。
また、金銭がかかる場合でも最終的に当事者が相談して合意した金額で問題がありません。

つまり、立退料はいくら払わなくてはならないという定めはなく、相場といえるものは基本的に存在しないのです。

リフォームを理由とした立退は正当事由に当たるのか?

立退料の性質について理解したところで、今回のような物件の大規模改修やリフォームを理由とした立退きの場合でも、貸主は立退料を支払う必要があるのでしょうか?

これについては、過去の判例でもリフォームは貸主都合の立退きと判断され、立退料の支払いを妥当とすることが多いです。
ただし、これはリフォームを行う理由によって立退料が減額される場合もあるようです。

具体的には、物件の現況をもって判断されます。
例えば、リフォームをしないと天災や地震によって物件が倒壊する可能性が高いといえるほど老朽化している状態であれば、リフォームが理由でも貸主の主張には一定の正当事由が認められ、立退料は減額できるでしょう。

逆に「大規模な改築・リニューアルをして入居者を集めたい」「古い物件なので取り壊して土地を売却したい、新しくマンションを建て替えたい」などの理由であれば、正当事由とは判断されず、立退料の負担も増額する傾向があります。

立ち退き料において負担が必要な費用はどのような項目?

立退料には相場はなく、両者の話し合いによって決定するということはご理解いただけましたでしょうか?
では、立退料を支払う場合、具体的にどんな費用がその対象となるのでしょうか?

これは、過去に立退き訴訟となった際の裁判所の判例から貸主が負担すべき金額の総額がおおよそこのくらいになるという数字なのです。
この金額も住居用賃貸か、事業用の賃貸か、など様々な事由で変わってくるのです。

住居用の不動産の場合

居住用の賃貸マンションやアパートの入居者に貸主都合で立ち退いてもらう場合、立退料は以下のような内容が含まれます。

  • 引っ越し先の敷金・礼金・などの契約金
  • 引っ越し費用
  • 退去日までの賃料の免除
  • インターネットなどの解約費用と手続き費用
  • 迷惑料(慰謝料)

この全額の相場が代替賃料の6ヵ月〜10か月分にあたると言われています。
基本的には借主の負担なしで立退き前と同等の住環境を用意する為の費用を負担するというのが一般的なようです。

事業用の不動産の場合

事業用の場合は、住居用の場合とはまた判断基準が異なります。
事業用の場合は借主に発生する経済的な損失(立退きをするために逸してしまった利益)を考慮しなくてはなりません。

  • 移転経費(引っ越し先の敷金・礼金・などの契約金)
  • 借家権価値(土地家調査士がかんていした借家権の価値の内、借主の貢献がある部分の価値)
  • 営業補償(営業していれば得られるはずだった予想利益。従業員の給与。得意先喪失の補填。新店舗開店後の補填)

事業用の場合、特にトラブルになるのが、営業補填の部分です。
借主と貸主では当然想定する利益見込みに差異が出る為(借主は高く、貸主は安く見積がち)、どうしても折り合いがつかない場合は、裁判所で利益衡量を見つつ、立退料を決定します。

過去の判例の傾向から、「借家権価値」は認められないケースもあること、営業補填は事業の性質によってその額が多きく変わる特徴があることを理解しておきましょう。

例えば、地元密着で長年経営していた飲食店とIT企業の事務所では、当然ですが移転に伴う売上への影響は前者の方が大きくなります。
※新店舗周りでもう一度常連を付けなくてはならず、事業への影響は大きいなど。

このように法人の場合は立退料が場合によっては数千万円単位になることもあり得ます。
相場もはっきりせず、判断基準もケースバイケースですが、立退料を安く抑えるためにできる努力はあります。

まとめ

ここまで立退料について説明をしてきました。
リフォームなどの貸主にとっては正当といえる理由でも、貸主から借主に立退きを求める場合はそれなりの費用が必要となるのです。

立退料に具体的な相場はないので、最終的には貸主と借主が合意できた金額が立退料となります。そのため、いざというときの為に普段からコミュニケーションをとっておくことが重要といえます。

また両者で合意できない場合は、当事者だけで交渉をするのではなく、立ち退き交渉の経験が多い不動産管理会社や管轄地域の行政機関に相談をしてみるのも効果的でしょう。

裁判沙汰になっても、基本的には当事者間で和解することがほとんどなので、第三者を交えて納得してもうよう交渉することが重要といえます。
管理会社であれば、計画的な修繕の提案や立ち退き交渉時にも、同等の物件を探してくれたりと力になってくれる場合もあるでしょう。

また、建て替えなどを検討している場合は「定期借家契約」を締結する、更新時に「普通借家契約から定期借家契約に変更してもらう」などの事前準備が重要となってくるでしょう。gg

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