新しく成立した「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律案」とは?

「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律案」によって賃貸住宅管理業を行う場合、国土交通大臣の登録を義務づけられる方向に進んでいます。

賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律案について

2020年6月19日に公布された「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律案」。
賃貸管理業においては非常に重要な法案ですが、

「賃貸管理業の何が変わるのか具体的にわからない」
「法律案が公布されたことで、準備しなければいけないことはなんだろう」

と疑問に思う方もいるのではないでしょうか。
そこで、今回は「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律案」が賃貸管理業にもたらす変化について解説していきます。

賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律案とは?

まず、公布された法案案の概要は以下のとおりです。

(1)サブリース業者と所有者との間の賃貸借契約の適正化に係る措置

〇全てのサブリース業者に対し、
・勧誘時における、故意に事実を告げず、又は不実を告げる等の不当な行為の禁止
・サブリース業者と所有者との間の賃貸借契約の締結前の重要事項説明等を義務づけ

〇サブリース業者と組んでサブリースによる賃貸住宅経営の勧誘を行う者(勧誘者)についても、契約の適正化のための規制の対象とする

(2)賃貸住宅管理業に係る登録制度の創設

〇賃貸住宅管理業を営もうとする者について、国土交通大臣の登録を義務づけ

〇登録を受けた賃貸住宅管理業者について、
・業務管理者の選任 ・管理受託契約締結前の重要事項の説明
・財産の分別管理
・委託者への定期報告等を義務づけ

参考URL:国土交通省『「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律案」を閣議決定』

それでは、上記法律案について、1つずつ解説していきます。

① 「全てのサブリース業者に対し、勧誘時における、故意に事実を告げず、又は不実を告げる等の不当な行為の禁止」

ここで言及されている「不当な行為」とは、例えばサブリース契約をする際に「一定の賃料を30年間保証する」と説明したが、実際には3年毎に賃料の減額を求める、といった場合が挙げられます。
こういった契約と実態が明らかに異なる場合、「不実を告げる」に該当します。
また、わざと賃料を減額する可能性について説明しない、免責期間や解約時の高額な違約金について言及しない、といった行為は上記法律の「故意に事実を告げず」に該当するでしょう。

つまり、サブリース業者がオーナーと契約をする際に、契約のメリット、デメリットを含めた全容をきちんと説明することが義務付けられたのです。

② 「サブリース業者と所有者との間の賃貸借契約の締結前の重要事項説明等を義務づけ」

サブリース業者が支払う賃料や家賃保証期間、契約解除の条件、免責期間等について明記した書類を公布して、オーナーに内容を説明することが義務付けられた、ということです。
サブリースに関しては、これまで重要事項説明がきちんと義務づけられていなかったため、今回の法案で明記されたということになります。

③ 「サブリース業者と組んでサブリースによる賃貸住宅経営の勧誘を行う者(勧誘者)についても、契約の適正化のための規制の対象とする」

ここでいう「サブリース業者と組んでサブリースによる賃貸住宅経営の勧誘を行う者」とは、例えばサブリース業者をグループ会社に持つ賃貸住宅の建設会社、もしくはサブリース業者の関連会社のことを言います。

そういった業者・会社が土地所有者等に賃貸住宅の建設を勧誘して、サブリース業者がその物件のオーナーに対しサブリース契約を申し込む、という例が挙げられますが、このたびの法案ではこうした「サブリース業者と提携して賃貸住宅経営の勧誘を行う者」も規制の対象となるため、建設会社などが自身の利益のために信用度が低いサブリース業者と組む危険を回避できます。

④ 「賃貸住宅管理業を営もうとする者について、国土交通大臣の登録を義務づけ」

これまでの賃貸管理業は、その内容について法律で規定されていませんでした。
そのため管理の内容について説明が不足していたり、集金した家賃を分けて管理せず会社内の資金繰りに利用してしまう、といったケースも起こり得ます。
しかし今回の法律によって、賃貸管理業において遵守するべき内容を明確に規定し、すべての賃貸管理業者がその内容を守りながら業務にあたるよう登録を義務付けたことで、優良業者のみが賃貸管理業を行っている状態を作り出せることが期待されています。

また、この登録の有効期間は5年間で、5年毎に更新を行う必要があります。

さて、ここまで詳しく解説してきましたが、法律案の内容をまとめると、以下のように整理できます。

  • ・サブリース業者およびサブリースによる賃貸住宅経営の勧誘を行う者の勧誘・契約締結に関して規制を導入
  • ・国による賃貸管理業者登録が義務づけられ、不良業者が排除される

また、違反者に関しては業務停止命令や罰金等の措置が行われますので注意しましょう。

法律案公布の目的

国土交通省が2019年12月に公表した『賃貸住宅管理業務に関する調査結果』によれば、賃貸物件の管理を業者に委託したり、サブリースを選択するオーナーが多いことが判明しました。
その理由として挙げられているなかでもとくに多かったのが以下の理由です。

  • 「自分自身の賃貸契約および管理に関する専門知識が不足していると感じるから」
  • 「契約更新・終了時のトラブルをなくしたいから」
  • 「建物に関するトラブル発生時に、適時適切に対応してほしいから」
  • 「細やかな入居者管理を行う時間的余裕がないから」
  • 「入居者とのトラブル発生時に、第三者として間に入って調整してほしいから」
  • 「自ら行うよりも委託したほうが結局効率的だから」

上記のような理由があげられる背景には、自分で賃貸管理業務を遂行するには知識が足りない、もしくは知識が十分にあったとしても面倒であるというのが大方の考え方ではないかと思われます。
しかし、そういった知識不足や、自身の所有する物件の管理から目を離してしまいがちな傾向も1つの原因となり、オーナー・賃貸管理業者(とくにサブリース業者)間のトラブルが増えているようです。

オーナーと賃貸管理業者の間でよく見受けられるトラブルの一例として挙げられるのが
「管理業者から管理業務に関する報告がなく、適切に対応がなされているか把握できない」といった声があります。
こういった事態を防ぐために、今回の法案では「委託者への定期報告」が義務付けられています。

また、オーナーとサブリース業者の間で目立つトラブルとしては
「サブリース業者から、サブリース物件の収入や費用、契約内容の変更条件などが家主に十分な説明がないまま契約を求められた」
「サブリース業者からサブリース契約の途中での大幅な賃料減額等の予期せぬ条件変更を求められた」
といったものが挙げられ、こうした事態を回避するために「勧誘時における、故意に事実を告げず、又は不実を告げる等の不当な行為の禁止」「サブリース業者と所有者との間の賃貸借契約の締結前の重要事項説明等を義務づけ」を規定したものと考えられます。

法律の背景

先述したようなトラブルは今になって注目され始めたわけではなく、以前から問題視されていました。
そのため、今回の法案公布までには様々な対策が行われてきましたが、これまで実施されてきた制度とこの度の法案をはっきり区別できておらず混乱している方もいるのではと思います。

そこで、ここではこの度の法案公布に漕ぎつけられるまでの流れを整理します。

今後20年増加が予測される単身世帯にとって、賃貸住宅の存在は欠かせないものになっていますが、先述したように、賃貸住宅は管理業者に委託されるケースが多くあります。そのため、管理業者とオーナー、もしくは入居者との間でトラブルが頻発しており、特にサブリース業者については、契約条件の誤認を原因とするトラブルが多発し社会問題となっていました。

こうした事態を解決するため、国は段階的に様々な対策を講じてきました。
その歩みをいくつかご紹介します。

平成23年:賃貸住宅管理業者の業務水準を引き上げるため賃貸住宅管理業者登録制度が開始。

本制度に登録している業者は、賃貸住宅管理業務に関して、一定のルールに沿って重要事項の説明や書面交付、家賃と社内財産の分別管理を行っていることが証明できるため、物件の貸主が賃貸管理業者と契約を行う際、その業者が優良業者であるか否かを判断できるようになりました。 また、賃貸物件の借主にとっても、管理業務が適切に行われているかどうかの判断材料になります。
しかしながら、この登録制度は「義務」ではありませんでした。

同年:賃貸不動産経営管理士が創設される。

賃貸不動産経営管理士とは、賃貸不動産の管理業務に関する幅広い知識を有す証明になる資格です。
平成28年には、賃貸住宅管理業者登録制度に登録している業者が、一定の業務を賃貸不動産経営管理士に担わせることが義務づけられたので、「賃貸住宅管理業者登録制度」と「賃貸不動産経営管理士」の二つを組み合わせることで賃貸管理業務の適正化が図られたのだと考えられます。

しかし、この段階でも登録制度は義務ではなかったため、賃貸住宅の管理業者全体の優良性を担保する制度が存在しなかったのです。
そこで、今回の新法案では賃貸管理業全体が対象になったというわけです。

賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律

さて、この「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」が施行されるのは、「賃貸住宅管理業を営む者に係る登録制度」が公布日から1年以内、「サブリース業者と所有者との間の賃貸借契約の適正化に係る措置」が交付日から6か月以内とされています。

新法の施行日までに賃貸管理会社、ならびにサブリース会社の皆さんが準備しておくべきことは何でしょうか。
最後に、新法施行までの準備について解説していきます。

賃貸住宅管理業者登録制度の義務化にあたっての準備

まず、賃貸管理業を営む皆さんにとって知るべきことは、登録制度の対象についてです。
この登録制度の対象は「賃貸住宅」になりますので、事業用の店舗・事務所のみを取り扱う不動産管理会社は対象外になります。
また、現在のところ管理している戸数によっては登録が「義務」にはなりません。

賃貸住宅管理業者登録制度の登録については今すぐ行うことが可能です。国土交通省のホームページにて詳細が記載されていますのでご確認ください。

サブリース業者と所有者との間の賃貸借契約の適正化に係る措置

サブリースに関しては、違反行為と義務行為をきちんと認識し、現在の業務内容と比較、改善することが重要です。

◆違反行為

  • 誇大広告等の禁止
    サブリース業者が支払うべき家賃、賃貸住宅の管理方法、賃貸借契約の解除等に関してその内容を誤認させるような広告表示を行ってはいけません。
  • 不当な勧誘等の禁止
    先述したように、賃貸借契約の締結勧誘に際して、契約内容について故意に伝えない内容、真実ではない内容の説明が存在してはいけません。

◆義務行為

  • マスターリース契約の締結前、重要事項説明書を交付し、その内容について必ず説明する必要があります。

まとめ

不動産管理業界で頻発するトラブルを未然に回避するため、そして優良な管理業者を担保するために公布された「管理業務等の適正化に関する法律案」。
法案の内容と、皆さんの業務内容を十分に比較して、「登録の必要はあるのか」「改善すべき業務はあるのか」を適切に整理し、法律の施行日に備えていくことが必要となります。

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