売買や賃貸など、不動産取引を行う際には、買主や借主が契約を決めるかどうかの判断のために、物件の詳細や取引の条件、権利関係などを十分に理解してもらうために「重要事項説明」を行わなくてはなりません。
重要事項説明は、宅地建物取引法35条で不動産取引に際して必ず行うことが義務付けられています。
宅地建物取引業法 第三十五条(重要事項の説明等)宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第五号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。
ここまでは不動産会社に勤務していて宅建業に携わっている方にとっては常識でしょう。
では、実際の重要事項説明書に書かれる記載事項の内容の中でも、「法令に基づく制限の概要」に関しても、きちんと理解していますでしょうか?
今回は「法令に基づく制限の概要」について、その意味や賃貸での取引においてどのような内容を書くべきか、記述内容はどうすれば調べられるのか(調査方法)についてご紹介していきます。
「法令に基づく制限の概要」ってどういう意味?
「法令に基づく制限の概要」とは、その名前の通り「取引の対象となる土地や建物が、都市計画法や建築基準法を始めとする各種法令による制限を受けるか」を記載する箇所になります。
不動産はそれぞれ、利用できる用途が公法によって定められています。これを「用途地域」と言います。
またその上に立てる建物も好きなように建てて良いわけではなく、用途に合う目的の建物を定められた基準に沿って立てなくてはいけません。
こういった法令による制限を受けている土地や建物などの物件について、宅建業者は買主・借主にそれらの説明をしなくてはなりません。
では、具体的には「法令による制限」とはどのような内容のものがあるのでしょうか?
具体的にはどんな法令があるの?
主な法律としては、まず、都市計画法と建築基準法があります。
さらに細かく言うと他にも50種類を超える土地、建物の使用を制限する法令があります。
都市計画法は、簡単に言えば「街の住み分け」について規定した法律です。
無計画な都市形成を防ぐことを目的に定められた法律で、一定の地域を同じ用途だけに使わせる土地として制限することで、住みやすい都市形成を図っています。
都市計画法では、全国の土地を以下の3つの地域に分けています。
- 都市計画地域・・・都市計画法の制限を受ける地域
- 準都市計画区域・・・将来の都市化のために、一部都市計画法の制限を受ける地域
- その他地域・・・都市計画法の制限を受けない地域
尚、東京23区はほぼすべてのエリアが都市計画地域に指定されています。
つまり、23区内の土地建物はすべて都市計画法の制限を受けるということになりますね。
都市計画区域はさらに、「市街化区域」と「市街化調整地域」の2つに分かれます。
- 市街化区域・・・既に市街地として形成されている区域。10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき地域
- 市街化調整区域・・・市街化を抑制すべき区域
市街化調整区域に関しては、原則新しい建物を建てることができません。逆に市街化区域はその区域内で土地の利用目的を定めて秩序だった都市化を図っています。これを「区域区分」と言います。
区域区分には更に、12種類に分かれており、その地域の利用目的や建物の構造は建築基準法によって定められています。
賃貸仲介の場合に重要事項として説明義務がある3つの法令とは?
法令による制限は、不動産の売買契約ではその土地、建物を購入した人にとって、将来の資産活用や建て替えに直接影響する部分なので非常に重要な内容になります。
そのため、売買契約の重要事項説明においては、必ず説明しなくてはいけません。
説明しない場合は宅建業法違反となります。
賃貸の場合、借主には直接的には関係がない部分も多く、都市計画法や建築基準法による制限は、重要事項説明での説明を義務付けられていません。
ただし、賃貸の場合でも説明をしなくてはいけない法令があることはご存知でしょうか?
具体的には以下の3つの法令になります。
- 新住宅市街地開発法32条1項
- 新都市基盤整備法51条1項
- 流通業務市街地の整備に関する法律38条1項
なお、以前は「農地法第73条1項 売り渡した土地等の処分の制限」に関しても記載が必要でしたが、平成21年の法改正により記載が不要となりました。
【参考URL】
住宅市街地開発法による法令に基づく制限とは?
住宅市街地開発法第三十二条 (造成宅地等に関する権利の処分の制限)
新住宅市街地開発事業の工事の完了公告の日から起算して10年間は、造成された宅地に建築された建築物に関する所有権・地上権・賃借権等の権利の設定又は移転を行う場合は、原則として都道府県知事の承認を受けなければならない
住宅市街地開発法第三十二条 (造成宅地等に関する権利の処分の制限)
新住宅市街地開発事業の工事の完了公告の日から起算して10年間は、造成された宅地に建築された建築物に関する所有権・地上権・賃借権等の権利の設定又は移転を行う場合は、原則として都道府県知事の承認を受けなければならない
新住宅市街開発行法とは、東京、大阪、名古屋などの人口、産業が一極集中した都市の周辺の非常に住宅需要が高い地域に対し、健全な住宅市街地として、住宅地を大量に供給することを目的に定められた法律です。
具体的な地域としては、多摩ニュータウンや大阪の千里ニュータウン、茨城県のつくば研究学園都市などが挙げられます。(許可を得ずに結んだ売買契約や賃貸借契約などは無効となる場合がある)
新住宅市街地開発事業として、開発された土地や建物は10年間は、所有権を移転したり、賃貸借契約を結んだりはできません。(無断で結んだ契約は効果なし)
このような事実を知らされないで賃貸借契約を結んでしまうと、借主は当然その土地や建物を使用できなくなってしまいます。そのため、重要事項説明において説明義務があるとされています。
新都市基盤整備法よる法令上の制限とは?
新都市基盤整備法第五十一条 (開発誘導地区内の土地等に関する権利の処分の制限)
開発誘導地区(施行区域を都市として開発するための中核となる地区)内の土地又は建築物の移転等をする場合は、換地処分の公告の日から10年間は、原則として都道府県知事の承認を受けなければならないこと(第51条第1項)
新都市基盤整備法第五十一条 (開発誘導地区内の土地等に関する権利の処分の制限)
開発誘導地区(施行区域を都市として開発するための中核となる地区)内の土地又は建築物の移転等をする場合は、換地処分の公告の日から10年間は、原則として都道府県知事の承認を受けなければならないこと(第51条第1項)
前述の住宅市街地開発法の場合と似ていますが、こちらは住宅に限らず、新都市形成のための、開発誘導地区として定めた地域を開発する場合に適応される法律です。
しかし、平成29年現在、実際に着手した計画の例はありません。
よって、この法律に関しては現状では、すべての物件において制限を受けていないと言えます。
流通業務市街地の整備に関する法律による制限とは?
流通業務市街地の整備に関する法律第38条 (造成敷地等に関する権利の処分の制限)
流通業務団地造成事業工事の完了の交付から10年間は、造成敷地等又は造成敷地等である敷地の上に建設された流通業務施設又は公益的施設に関する所有権、地上権、質権、使用貸借による権利又は賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利の設定又は移転については、国土交通省令で定めるところにより、当事者が都道府県知事の承認を受けなければならない。
流通業務団地造成事業によって開発された地域では、流通業務施設および流通業務に関連する施設のみしか建築できません。さらに、開発された土地や施設は10年間は、所有権を移転したり、賃貸借契約を結んだりはできません。(無断で結んだ契約は効果なし)
これも、借主の判断を決定に大きな影響を与える要素のため、賃貸の取引においても重要事項説明での記載が必要とされています。
では、実際に対象の土地や建物が前述の3つの法律の制限を受けるかを調べるには、どうしたらいいのでしょう?
「法令に基づく制限の概要」についての調査方法!どこで調べられる?
実際の確認手順について、国土交通省住宅局建築指導課の方に法令に基づく制限の調べ方について質問を行いましたので、その回答をご紹介します。
具体的な調査方法については、市町村などの各自治体の都市計画課、及びそれに準ずる担当部署に確認すれば、調査・回答してくれます。
ただし、現状該当するケースはかなり少ないので、あまり確認する機会は少ないかもしれません。
ということで、各自治体の都市計画課に問い合わせるのが確実、というご回答でした。
対応状況が自治体によって違うため、インターネットですぐに調べるということはできないようです。
ただし、日本全体の人口が減少している昨今、このようなニュータウンが新しく作られることは可能性と低く、ほとんど記載する必要がないというのが実情かもしれません。
それでも重要事項の説明内容として、対象の不動産が制限を受けているかどうか、どういったことを説明するのか、説明が必要な場合はどんな時か、についてはしっかりと理解して、借主に対し説明することが不動産会社として求められる部分となります。
まとめ
ここまで、重要事項説明における「法令に基づく制限の概要」について説明してきました。
賃貸の重要事項説明では、あまり記載することがない部分ですが、実は記載をしなくてはならないケースがあるということはご理解いただけましたでしょうか?
最後に、クラウド賃貸管理ソフトの「リドックス」では、契約情報を自動反映した重要事項説明書を簡単に作成できます。「法令に基づく制限に関する概要」はもちろん、それ以外の説明事項も、一度ソフトに登録しておけば必要な時に反映された重要事項説明書を出力できます。
例えば、賃貸マンションやアパートのオーナーチェンジなどによって、新たに管理する物件が増えた場合や、新築のマンションやアパートを取り扱うことになった場合に、法令に基づく制限を受ける不動産・物件でないかは必ず調査をしなくてはいけないケースであると考えられます。
ぜひ、今回の記事とリドックスを活用して、ミスなく重要事項説明書を作ってみてはいかがでしょうか?
この記事は「クラウド賃貸管理ソフトReDocS(リドックス)」が運営しています。
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