意外に覚えていない「公正証書」とは? 通常の賃貸借契約書とはどう違うの?

「宅建の時に勉強したっきり詳しいところまでは覚えていない」という方も多い公正証書について解説しています。

「公正証書」とは?

契約ごとの多い賃貸管理の現場でも時々目にする「公正証書」について。
「なんとなく存在は知っていたけど、結局どんなものかわからない」「宅建の時に勉強したっきり詳しいところまでは覚えていない」「特定の契約の時には公正証書しないといけないって覚えた気がする、、、」という方も多いのではないでしょうか?

今回は、意外と知っているようで知らない「公正証書」について解説していきます。

公正証書とは?

公正証書とは、私人(個人または会社その他の法人)からの依頼により「公証人」が作成する文書を公正証書といいます。
また、公証人は、法律実務の経験が豊かな公務員で、法務大臣によって任命されます。

公正証書は主に、土地や建物の売買、賃貸借、ローン契約などの契約に使用されるのが一般的です

それでは、公正証書にはどんな働きがあるのでしょうか。

①証明力や信頼度が高い

公正証書は公務員がその権限に基づいて作成した書類であるため、証明力や信頼度が高いのが特徴です。

②金銭の支払いに関する強制執行力がある

例えば金銭の支払いを目的とした公正証書の場合、文書内に「金銭支払いを強制執行する旨」が記載してあれば、債務者の支払いが滞ったとき直ちに財産の差し押さえを行うことができます。
通常こういった強制執行は裁判を経なければ実行できませんが、公正証書には強力な執行力があるため迅速に債権者の権利を守ることができます。

③偽造や紛失のリスクが少ない

公正証書は法務省が管轄する「公正役場」にて厳重に保管されますので、通常の契約書と比較して偽造や紛失の心配がありません。
つまり、公正証書は通常の契約書よりも証明力や信頼度が高く、金銭の支払いに関しては強力な執行力を有する公文書なのです。

より詳しくは法務省の「公証制度について」をご参照ください。

公正証書はどうやって作成する?

さて、公正証書が公証人によって作成されることはわかりましたが、実際にはどのような手順で作成を依頼すればよいのでしょうか。
具体的な手順は以下のとおりです。

①契約の当事者同士で契約内容の確認をおこなう

公正証書の作成を依頼する前に、文書にどんな内容を記載するか、またその内容に契約の当事者同士が合意していることを確認しておきます

②公証役場に問い合わせをする

契約の当事者同士で契約の内容を確認したら、公証役場に問い合わせて予約をとります。
基本的には、予約をとった日時に契約の当事者双方が公証役場に赴くことになります

③必要書類を持って公正役場に行く

公証役場に行く当日、必要な書類は以下のとおりです。

A. 契約当事者本人(法人の場合は代表者)が公証役場で署名・捺印できる場合
I. 本人が個人の場合
a. 印鑑登録証明書及び実印、もしくは、運転免許証、パスポート等の顔写真入りの公的機関発行の身分証明書のいずれか1つ及び認印
II. 本人が法人の場合
a. 法人登記簿謄本又は登記事項証明書(いわゆる資格証明書。具体的には、「現在事項全部証明書」「履歴事項全部証明書」「代表者事項証明書」のいずれか1つ)
b. 法人代表者の印鑑証明書
c. 法人代表者の代表者印
B. 契約当事者本人(法人の場合は代表者)が公証役場で署名・捺印できず、代理人が代わって署名・捺印する場合
I. 契約当事者各本人の身分証明書等
a. 本人が個人の場合は、印鑑登録証明書
b. 本人が法人の場合
i. 法人登記簿謄本又は登記事項証明書(いわゆる資格証明書。具体的には、「現在事項全部証明書」「履歴事項全部証明書」「代表者事項証明書」のいずれか1つ)
ii. 法人代表者の印鑑証明書
II. 本人から代理人への委任状(個人の実印又は法人代表者の上記b.ⅱ.と同一の代表者印を押捺したもの)
契約書を添付する等、契約内容が明らかになっていることが必要。
委任状と添付契約書、添付契約書の各頁間にそれぞれ割印(契印)するか委任状と契約書とを袋とじにして割印(契印)してください。
なお、添付の契約書はコピーでかまいません。
Ⅲ. 代理人の身分証明
a. 運転免許証、パスポート等の顔入写真りの公的機関発行の身分証明書のいずれか1つ及び認印もしくは、印鑑登録証明書及び実印

また、公正証書の作成には手数料が必要になります。
賃貸借契約の場合、賃料の総額(月額賃料×合計月数)を2倍した額(目的価格)によって手数料は変動します。
手数料の一覧は以下のとおりです。

目的の価額 手数料
100万円以下 5,000円
100万円を超え200万円以下 7,000円
200万円を超え500万円以下 11,000円
500万円を超え1,000万円以下 17,000円
1,000万円を超え3,000万円以下 23,000円
3,000万円を超え5,000万円以下 29,000円
5,000万円を超え1億円以下 43,000円
1億円を超え3億円以下 43,000円に5,000万円までごとに1万3,000円を加算
3億円を超え10億円以下 9万5000円に5,000万円までごとに1万1,000円を加算
10億円を超える場合 24万9,000円に5,000万円までごとに8,000円を加算

昭和通り公証役場『賃貸借契約』より引用

上記手数料に別途、正本や謄本の費用がかかります。
印紙代について建物賃貸借は無料ですが、土地賃貸借については200円必要です。

④公正証書の内容聴取

公証人が公正証書に記載する内容を聴取し、原案を作成します。
この際、文書の内容が法律的な観点から妥当と言えるか、慎重に検討されます。

⑤公正証書作成

公正証書の完成は原案作成の後日です。
再度公証役場に行って文書に署名し、文書を受け取ります。
原本は役場で大切に保管されます。

3.公正証書って賃貸管理の場面ではどんなときに使うの?

公正証書の概要と作成方法についてはイメージがついたかと思いますが、賃貸管理に従事する皆さんにとって気になるのは、実際にどんな場面で役立つのかということですよね。
ここからは公正証書と賃貸管理について解説していきます。

①家賃滞納者に対して支払いを強制する

ずばり、賃貸管理において公正証書が最も活躍するのは家賃の支払いです。
入居者との契約時、賃貸借契約書を「家賃滞納時の支払い強制を明文化した公正証書」にしておくことで、実際に滞納が発生した際、すぐに借主の口座や財産を差し押さえることができます。

通常、家賃滞納者が発生した場合は督促→裁判→支払い強制のプロセスを踏む必要がありますので、公正証書で賃貸借契約を結んだ場合とそうでない場合では家賃滞納時 の賃料回収速度が段違いになります。

ただし、物件から追い出す強制執行はできない点に注意が必要です。
あくまでも公正証書が効力を発揮するのは家賃の支払いに関わることのみになります。

②契約内容に関するトラブルを未然に防ぐことができる

賃貸借契約では、家賃以外にも後々トラブルになりそうな要素があります。
物件の使用目的や賃料の増額や減額、賃貸借の期間がそれに該当するでしょう。
そういったものを公正証書において具体的に明文化することで、契約内容に関するトラブルを未然に防ぐことができます。

なぜなら、先述したとおり公正証書は国に認められた公務員が作成した書類ですので、契約内容の効力について当事者が疑う余地がないからです。

③公正証書の作成が義務付けられている賃貸借契約が存在する

賃貸借契約のなかには、法律によって公正証書の作成が義務づけられているものがあります。
事業用定期借地権がこれに該当し、借地借家法第23条によって公正証書による契約が義務付けられています。

[補足]
また、認知症等により賃貸物件所有者の判断能力低下が予測される場合には、任意後見人(代理人)に賃貸借契約を引き受けてもらう必要があります。
この任意後見契約そのものは公正証書による契約が義務付けられています。
任意後見人が行う賃貸借契約に関して公正証書は必ずしも必要ありません。

4.公正証書で契約しないといけないのに、通常の書面で契約したらどうなる?

先ほど紹介した事業用定期借地権ですが、公正証書を使用せずに契約した場合、無効の契約となります。
無効の契約はそもそも契約が存在しないことと同義ですので、先述した契約では必ず公正証書を作成するようにしましょう。

まとめ

公正証書とはすなわち、賃貸管理の場面においては

  • 賃貸借契約の内容に関する意見の相違やトラブルを未然に防ぐ
  • 家賃滞納者に対して迅速に家賃の支払いを強制する

効果があることがわかりました。

事業用定期借地権のような例外を除けば、賃貸借契約において公正証書を作成する義務はありません。
また、賃借人の支払い能力が著しく低下している場合には、差し押さえられる財産が期待できないため強力な支払い強制効果も意味がないかもしれません。

しかし、公正証書を作成する過程で契約の当事者は多くの打ち合わせを行うことになりますから、幾度もコミュニケーションを重ねながら契約の内容を確認することにより、契約者間において信頼関係が生まれやすくなるのではないでしょうか。

契約上のトラブルを防ぐためには互いが契約の内容を十分に確認していること、そして信頼関係が生まれていることが重要ですから、そういった観点では賃貸借契約において公正証書を作成する意義は充分にあると言えるでしょう。

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