【1】はじめに
2021年6月15日、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」の全面施行がスタートしました。この法律案は2020年6月12日に成立しましたが、それには以下のような背景があります。
●賃貸住宅志向の高まりと、頻繁に発生するトラブル
国土交通省が2018年に実施した「住生活総合調査」によれば、以下の図のように国民の賃貸住宅志向が高まっています。「持ち家から賃貸住宅に住み替えたいという人」も、「現在賃貸に住んでいるが次もそうしたい」という人も年々増加傾向にあります。
しかし、一方で賃貸物件の管理者と物件オーナー、入居者の間で発生するトラブルが発生し続けている現状があります。よく見受けられるトラブルの例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 賃貸管理会社からオーナー(大家さん)の賃料送金が滞る
- 不動産管理会社から入居者へ敷金が返金されない
- 重要事項説明や契約書類の交付が行われず、根拠が不明確なまま賃料が管理報酬と相殺される
- 修理や修繕の実施状況について問い合わせても報告してもらえない
こういったトラブルが起こらないよう、「賃貸住宅の管理に従事する事業者」についてクリアすべき一定の条件を設置することが求められました。
この結果今回の法案に組み込まれたのが「賃貸住宅管理業登録制度」です。
●マスターリース契約(家賃保証)におけるトラブル
最近では、賃貸物件の管理をサブリースの不動産会社に委託するオーナーが増加していると言われています。その理由は主に3点あります。
- オーナーの高齢化が進み、大家業との兼業に負担を感じる人が増えた
- 社会情勢の変化や技術の進歩によって建物の設備が複雑になり、管理のために専門的な知識が必要になった
- 先述した賃貸志向の高まりと共に入居者が質の高い管理を求めるようになり、片手間の管理では対応しきれなくなった
サブリースは管理に関する事務作業をすべて一任できるメリットがある一方で、以下のようなトラブルも見受けられるようです。
- サブリース物件の収入や費用、契約内容の変更条件等の説明を受けないまま契約してしまった
- 30年間同じ家賃収入が入ってくると思っていたが、予期せぬ賃料減額があった
これらは不動産会社とオーナーが詳細な契約内容を共有できていないことで発生する問題です。
これを是正するため法案に組み込まれたのが「サブリース業者と所有者との間の賃貸借契約の適正に係る措置」です。
では、「賃貸住宅管理業登録制度」と「サブリース業者と所有者との間の賃貸借契約の適正に係る措置」はこれからの賃貸管理業務にどのような影響をもたらすのでしょうか。
次項からは、その具体的な内容について解説していきます。
【2】賃貸住宅管理業登録制度で変わる業務とは
賃貸住宅管理業登録制度とは、業界の健全な発展と育成を図るため創設された登録制度です。賃貸住宅管理業務をおこなう事業者は国土交通大臣の登録を受けなければなりません。
登録しなければならない事業者に関しては、以下のような条件があります。
●管理戸数が200戸以上であること
この「戸数」は賃貸借契約の数を基準としています。
例えば、30戸ある賃貸アパートを1棟管理しているなら、空室があったとしても30戸管理していることになります。
●賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律によって定められる「賃貸管理業務」を実施していること
この「賃貸管理業務」の定義とは、以下のとおりです。
賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律
第一章 総則
第二条
2 この法律に「賃貸住宅管理業」とは、賃貸住宅の賃貸人から委託を受けて、次に掲げる業務(以下「管理業務」という。)を行う事業をいう。
一 当該委託に係る賃貸住宅の維持保全(住宅の居室及びその他の部分について、点検、清掃その他の維持を行い、及び必要な修繕を行うことをいう。以下同じ。)を行う業務(賃貸住宅の賃貸人のために当該維持保全に係る契約の締結の媒介、取次ぎ又は代理を行う業務を含む。)
二 当該賃貸住宅に係る家賃、敷金、共益費その他の金銭の管理を行う業務(前号に掲げる業務と併せて行うものに限る。)
上記一項の「住宅の維持保全」をおこなっていることが必須であり、二項の「金銭の管理」のみを実施している場合は「賃貸住宅管理業務」の定義に当てはまりません。
そして、この登録制度に登録した事業者は以下を義務づけられています。
- 業務管理者の配置
- 管理受託契約締結前の重要事項の説明
- 財産の分別管理
- 定期報告
業務管理者の配置
事務所毎に、賃貸住宅管理の知識・経験等を有する者を配置する必要があります。
この「業務管理者」とは具体的にどんな人たちのことを言うのでしょうか。
「業務管理者」の要件は以下3点です。
1.宅地建物取引士
管理業務に関して2年以上の実務経験を持ち、かつ「賃貸住宅管理業業務管理者講習」を修了した宅地建物取引士が「業務管理者」に該当します。
賃貸住宅管理業業務管理者講習は、ハトマーク支援機構と全国不動産協会が実施する講習です。
申し込みから講習動画視聴・効果測定・修了証の交付までをインターネット上で行える「webコース」と、申し込み・効果測定・修了証の交付を郵送手続きで実施し、講義動画をDVDで借りる「郵送コース」があります。
受講料は税込19,800円で、5年毎に更新する必要があります。
ハトマーク支援機構による講習特設サイトはこちら
全国不動産協会の講習申込ページはこちら
2.国土交通大臣の登録を受けた機関が実施する登録試験に合格した者
管理業務に関して2年以上の実務経験を持ち、2022年度以降に実施される「国土交通大臣の登録を受けた機関が実施する登録試験(仮称)」に合格した人も「業務管理者」になることができます。
この試験合格によって発行される証明書も有効期間は5年間であり、有効期間が過ぎる前に更新する必要があります。
この試験について実施期間、試験の具体的な内容等は未定となっています。
3.賃貸不動産経営管理士
2020年度までに賃貸不動産経営管理士の試験に合格し、かつ2022年6月15日までに賃貸不動産経営管理士として登録を受けていて、さらに当法律施行から1年の間に「業務管理者移行講習」を修了した者は「業務管理者」として登録できます。
この講習は日本賃貸住宅管理協会が実施しています。インターネット上で受講することができ、費用はテキスト代・効果測定受験料等を含め税込7,700円です。
国土交通省『賃貸住宅管理業に関する論点のとりまとめ』より抜粋、一部編集
管理受託契約締結前の重要事項の説明
管理受託契約の締結前に、オーナーが契約内容をきちんと理解してから契約締結できるよう、重要事項説明・管理業務の内容や実施方法等について書面にして報告をする必要があります。これについては、オンラインによる重要事項説明、電子書面による交付が可能です。
国土交通省によると、この説明をおこなうのは「業務管理者または賃貸管理に関して専門的な知識を持つものが好ましい」とされていますが、必ずしも業務管理者が実施しなくてはいけないという規定はありません。
また、管理受託契約締結前の重要事項説明書には以下事項を記載する必要があります。
- 管理受託契約を締結する賃貸住宅管理業者の商号、名称または氏名並びに登録年月日および登録番号
- 管理業務の対象となる賃貸住宅
- 報酬ならびにその支払いに時期および方法
- 報酬に含まれていない管理業務に関する費用であって、賃貸住宅管理業者が通常必要とするもの
- 管理業務の一部の再委託に関する事項
- 管理業務の内容および実施方法(金銭の管理方法を含む)
- 定期報告に関する事項
- 責任および免責に関わる事項
- 契約期間に関する事項
- 入居者への対応に関する事項
- 契約の更新または解除に関する事項
またこの書類を作成する際は、十分に読むべき内容を太枠の中で太字波下線にして、文字の大きさは日本産業企画Z8305において規定される12ポイント以上にしなければいけません。
それ以外の部分についても8ポイント以上のサイズで記載をします。
財産の分別管理
賃貸住宅管理業者は、管理業務において受領する家賃や敷金、共益費その他の金銭を、自己の固有財産と分けて管理する必要があります。この「分けて管理」とは、以下2点を意味します。
- 帳簿や会計ソフトでは、家賃等と自己の財産をはっきり分けて管理する
- 家賃や敷金を管理する口座と自己の固有財産を管理するための口座を分ける
定期報告
賃貸住宅の管理業者は、管理業務の実施状況等について、管理受託契約の相手方に報告をする必要があります。報告は、1年を超えない期間ごとにおこない、管理受託契約の契約期間満了後は遅れなく実施しなければなりません。
報告をすべき内容は以下のとおりです。
- 報告の対象となる期間
- 管理業務の実施状況
- 管理業務の対象となる賃貸住宅の入居者からの苦情の発生状況および対応状況
また、報告の手段は4点あります。
- 電子メール
- ウェブサイトから報告書をダウンロードしてもらう
- ウェブページ上で報告を閲覧してもらう
- CD-ROM等の記録メディアを送付
上記のうち、管理受託契約の相手方が必ずアクセスできる手段を選ぶ必要があります。
ここまでの内容をまとめると、「賃貸住宅管理業登録制度」が管理業務の現場に与える内容とは、「業務管理者としての登録」「契約前、契約期間中の詳細な報告」「財産の分別管理」です。
「賃貸住宅の管理をおこなう事業者」の要件に含まれているにもかかわらずこれらを実施しないと罰則もありますので、確実に実施しなければいけません。
【3】マスターリース契約はどう変わる?
さて、次にマスターリース契約はどのように変化したのでしょうか。
「サブリース業者と所有者との間の賃貸借契約の適正化に係る措置」によって規定された内容は以下3点です。
- 不当な勧誘行為の禁止
- 誇大広告等の禁止
- 特定賃貸借契約前の重要事項説明
不当な勧誘行為の禁止
サブリース業者・ならびに勧誘者(サブリース業者がマスターリース契約の締結についての勧誘を行わせる者)によるマスターリース契約の勧誘時に、家賃の減額リスクなど相手方の判断に影響を及ぼす事項について故意に事実を告げない、誤った情報を伝える、強引に勧誘するなどの行為が禁止されます。
「故意に事実を告げない」の定義としては、事実を認識しているにもかかわらずあえて言及しないことを言います。また、サブリース業者であれば当然知っている内容を報告しない場合も「不当な勧誘行為」に該当すると考えられます。
誇大広告等の禁止
マスターリース契約の条件について広告する際、実際の条件よりも良い条件だと誤認させるような内容、著しく事実に反する内容、故意に事実を伏せた内容を表示することが禁止されました。
「実際の条件よりも良い条件だと誤認させるような内容」とは、「マスターリース契約の内容等についての専門的知識や情報を有していないオーナーを誤認させる程度の内容」です。
受け手がどう認識するかが重要なので、内容が概ね事実だとしても、デザインやレイアウトによってデメリットを小さく表示すると「誤認させる内容」に該当してしまいます。
また、「著しく事実に相違する表示」に関しても、受け手がどう感じるかに重きを置かれるため事実を見やすい形で表示しているか確認する必要があります。
とくに誇大広告をしないよう注意しなくてはならないのが、以下事項です。
- サブリース業者がオーナーに支払う家賃の額、支払期日、その支払方法、家賃額の見直し時期、借地借家法第32条に基づく家賃の減額請求権、利回り
- サブリース業者が行う賃貸住宅の維持保全の内容、頻度、実施期間等
- 維持保全の費用を負担する者および当該費用に関するサブリース業者とオーナーの負担割合
- 契約期間、契約の更新時期および借地借家法第28条に基づく更新拒絶等の要件
特定賃貸借契約前の重要事項説明
マスターリース契約前には、必ず家賃・契約期間等を記載した書面を交付して重要事項説明をおこなう必要があります。
この重要事項説明をおこなう者に関して特定の規定はありませんが、賃貸不動産経営管理士をはじめとする専門的な知識・経験を有する人が説明を行うべきでしょう。
また、オーナーの契約意思が安定した状態で契約が締結されるよう、重要事項説明から契約締結までに1週間程度の期間を設けることが推奨されています。
重要事項説明書に記載しなければならない事項は以下14点です。
- マスターリース契約を締結するサブリース業者の商号、 名称又は氏名及び住所
- マスターリース契約の対象となる賃貸住宅
- 契約期間に関する事項(特に、契約期間は「家賃が固定される期間」ではないことを記載する必要があります。)
- マスターリース契約の相手方に支払う家賃の額、支払期日、支払方法等の条件 並びにその変更に関する事項(特に、オーナーが「契約期間中に家賃は不変である」という勘違いをしないように、家賃改定のタイミングや当初より家賃額が減額される可能性があることを明記しましょう。)
- サブリース業者が行う賃貸住宅の維持保全の実施方法
- サブリース業者が行う賃貸住宅の維持保全に要する費用の分担に関する事項(オーナーが負担する費用については具体的かつ詳細に記載します。)
- マスターリース契約の相手方に対する維持保全の実施状況の報告に関する事項
- 損害賠償額の予定又は違約金に関する事項
- 責任及び免責に関する事項
- 転借人の資格その他の転貸の条件に関する事項
- 転借人に対する⑤の内容の周知に関する事項
- マスターリース契約の更新及び解除に関する事項
- マスターリース契約が終了した場合におけるサブリース業者の権利義務の承継に関する事項
- 借地借家法その他マスターリース契約に係る法令に関する事項の概要
マスターリース契約の際は、その知識が浅いオーナーでも契約内容を充分に把握し、理解することができるように契約内容の説明を実施する必要があります。これに違反してしまった場合も、登録制度と同様に罰則があるため細心の注意を払いましょう。
【4】まとめ
以上のように、賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律とはすなわち、管理業務に従事する者と物件オーナー間のトラブルを回避するために、契約前や契約中にきちんと報告をするための法律だということがわかります。
賃貸住宅管理業登録制度に関しては「200戸以上管理している事業者」を登録が必須な規模としていますが、この制度のそもそもの目的である「トラブル回避」を考慮すると、たとえ管理戸数が基準の規模に到達していなくても登録を受けるべきではないでしょうか。
実際、管理戸数が200戸未満でも登録自体は可能です。
国土交通大臣の登録を受けた事業者であることをきちんと証明できれば、管理会社としての社会的信頼性も増すと考えられます。
また、日ごろからオーナーに対して適切な報告を実施していると自負している方も、この機会に今回の法律の要件を満たしているかチェックしてみることを推奨します。
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