「この前○○マンションを契約したものなのですが、やっぱりもっといい部屋が見つかったのでキャンセルしたいんですけど...」
入居希望者からこんな連絡が来たら...想像するだけでゾットしますよね。
さらにキャンセルだけで済まず、敷金や礼金の返還を求めてくるようなことがあったらどうすればいいのでしょうか?
今回は、入居前の契約キャンセルしてきた場合の対応方法についてご説明します。
借主が払った契約金は返さなくてはならないのか?
入居前になって契約を反故にする借主...返金どころかキャンセル料をもらいたい状態ですよね。
借主が返金を求めてきた場合、返金はしなくてはならないのでしょうか?
これはキャンセルを求めてきたタイミングによります。簡単に言うと、賃貸借契約の締結前なら返金しなくてはならず。締結後なら返金には応じなくてよい範囲があります。
そもそも賃貸借契約はどのタイミングで成立するか?
まずは、賃貸借契約の成立までの一連のフローを確認しておきましょう。
一般的な契約締結までの流れ
・入居申し込み(ある場合は申込金の支払い)
↓
・審査・契約書の作成&室内清掃などの準備
↓
・重要事項説明
・契約書に署名捺印
・契約金(前家賃、敷金・礼金など)の支払い
↓
・鍵の受け渡し
・入居、引っ越し
さて、上記のどの段階で契約は成立したといえるでしょうか?
これにはいくつかの説があります。
民法上、契約の成立に必要となるのは「当事者双方の意思表示の一致(合意)」とされています。
つまり「貸します」「借ります」という双方の意思が合致した時点で、口約束でも契約は成立しているといえます。
このように口頭の合意のみで成立する契約を「諾成契約」といい、賃貸借契約もこの一つと言われています。
諾成契約:当事者双方の合意だけで成立する契約。売買・賃貸借・請負など
引用元:諾成契約(コトバンク)
つまり、借主が申込書や審査書類を提出し、貸主が審査後に承認した時点で、契約は成立していると考えられます。
しかし、ここで問題になってくるのが宅建業法35条の存在です。
宅建業法35条で、賃貸借契約の成立前に宅地建物取引士による、重要事項説明を行うことが必要とされています。
そのため、重要事項説明を行っていない場合は賃貸借契約は成立しないという意見もあります。
ただ、厳密にいえば、宅建業法は宅地建物取引業者を規制するための法律であり、契約の成立とは直接的な関係はありません。
しかし、
・借主は契約の締結するための判断に必要な情報を受けるためにはは重要事項説明を行わなければ難しいこと。
・重要事項説明を行って、賃貸借契約書に署名・捺印をする。
という流れが実務上一般的になっています。
以上のことから「賃貸借契約の重要な部分」について同意し署名・捺印した段階で、賃貸借契約は成立しているといえるでしょう。
民法的には諾成契約のため書面の取り交わしは不要であると言えますが、実務的には重要事項説明を行い、賃貸借契約書に署名・捺印をするという行為が契約の成立にあたると考えられます。
具体的に返さなくてはならないお金は何か?
では、入居キャンセル時に具体的に返金する必要があるお金は何でしょうか?
契約締結前の場合
賃貸借契約の締結前であれば、貸主は借主にすべての費用を返還しなくてはいけません。
契約が成立していないので仕方がないです。
申込金、敷金、礼金、前家賃などは当然返還しなくてはなりません。
ひと昔前は「申込金をキャンセル料として扱い、返金しない」という不動産会社もあったようですが、これは違法なので絶対にやってはいけません。
例外として、借主が入居することを前提として、様々な準備が進められている場合、その中で貸主が負担した費用を借主に損害賠償請求することができる場合があります。
民法には「信義則」という大前提があり、契約を結ぶ際に当事者は「成立に向けて誠実に対応しなくてはならない」というルールがあります。
例えば、部屋仕切りの変更や、室内設備の追加などを借主が貸主に要求しており、それを貸主が負担して行っていた場合、それに掛かった費用は借主に請求することが可能です。
契約成立後の場合
契約が締結された後に借主都合でキャンセルする場合は、契約成立から「どのくらい時間が経過しているか」「入居の事実があるか」が重要となってきます。
種類 | 対応 |
---|---|
敷金 | 返金※入居しており、原状回復の必要がある場合は償却した額を返金 |
礼金 | 返金の必要なし |
家賃(前家賃) | 入居していなければ全額返金。入居していれば経過日数に応じて日割り |
仲介手数料 | 返金の必要なし |
火災保険料 | 保険会社のサービス約款に準ずる |
基本的には入居後の退去と同様として考えるべきでしょう。
敷金はその性質上「退去時の原状回復費用に充てるもの」として預かっているものなので、入居後まったく使用していない状態であれば全額返金もやむを得ません。
家賃に関しても、入居開始日からの経過日数に応じて日割分を返金とするのが適切です。
礼金や仲介手数料に関しては、契約は成立しているため返金の必要はありません。
礼金はオーナーさんが、仲介手数料は仲介業者への報酬として受け取ることが妥当でしょう。
即時解約についての違約金は請求できるか
賃貸借契約書に、「借主都合で、契約後1年以内に解約する場合は短期解約違約金として、賃料の1か月分を支払う」という条文がある場合はどうでしょうか?
これについては、請求額が法外な金額でない場合は請求が可能です。
契約が成立した時点で、「キャンセル」ではなく「解約」となるので当然短期解約違約金は請求することが可能です。
入居前キャンセルを防ぐためには?
近年インターネットの発達で、入居者側も得られる情報は以前よりも格段に増えています。
「入居申込」=契約ではないと知って、軽い気持ちで入居申込書を書く借主も少なくありません。
また、借主だけでなく「とりあえず後でキャンセルすればいいんで、申込書を書いてください」と、クロージングの方法の一つとして入居申込書を安易に書かせる仲介業者もこの傾向に拍車をかけている要因でしょう。
一般的に、入居申込が来れば募集は一旦停止しなくてはなりませんし、入居審査やルームクリーニング業者の手配などなど多大な時間と労力かけることになります。
キャンセルされてしまうとそれらすべてが無駄になってしまい、再度募集をかけることで時間も無駄になります。
現状、これを防ぐ明確な対応策はありませんが、とりうる方法としては、「入居申込から契約締結までの時間を極力短くする。」「頻繁にキャンセル客を入れてくる仲介業者を特定し、そこからの紹介の場合は2番手として募集を継続する」などの方法があるでしょう。
申込が入ったらキャンセルされないようにスピーディーに契約を結び、無事契約を成立させることも、管理を委託された管理会社の腕の見せ所です。仲介業者の傾向を把握し、オーナーと密に連携をとれる体制づくりを心掛けることが重要なのではないでしょうか。
この記事は「クラウド賃貸管理ソフトReDocS(リドックス)」が運営しています。
私たちは、「不動産管理ソフトを活用することで解決できる課題」だけでなく「不動産管理に関わる全ての悩み」を対象として様々なことをお伝えしていきます。