重要事項説明における告知義務違反と損害賠償命令の判例について

空室募集時に「告知内容あり」だと、なかなか入居者を誘致しづらいためできれば秘密にしておきたいと考える人も多いのではないでしょうか?

告知義務違反について
オーナーからの相談

この物件、告知事項あるんだけど、それじゃなかなか入居者が決まらないからそのことは隠して募集してみようと思うんだけど、どうかな?

その募集方法は絶対にストップです!!

貸室内で、前の入居者が自殺されたなどの「告知事項」がある物件のことを「事故物件」と呼んだりもします。次の入居者からすると、「自分の前の人が自殺した部屋なんて、、、」となってしまうので通常の物件よりもかなり成約が難しくなります。

賃貸管理を営んでいてそんな状況に置かれた場合、もしかしたら冒頭のコメントのように考えてしまう時もあるかもしれません。しかし、告知事項があることを知りながらもそれを隠した場合は宅建業法違反であり、違法行為です。今回は、判例を参考にしながら「告知事項」について見ていきたいと思います。

告知事項を告げずに契約した場合の損害賠償命令判例

まず、告知事項について簡単に説明すると、宅建業法上、その不動産を借りるか借りないかの「判断に重要な影響を及ぼす事項」については確実に重要事項説明として入居者に説明しなければならないとしています。
具体的にいうと、貸室内で人が自殺したというという場合はその事実を「心理的瑕疵」とみなして「告知事項」として入居者へ説明をしなければならないというようなことです。

参考URL:宅建業法等の平成18年度改正と重要事項説明について

では、ここで実際に発生した告知義務違反についての判例を見てみましょう。

【自殺告げず賃貸】家主の弁護士に賠償命令 地裁尼崎支部 毎日新聞 10月29日(火)

マンションの一室で自殺があったことを告げずにその部屋を賃貸したのは不法行為だとして、部屋を借りた男性が家主の男性弁護士(兵庫県弁護士会所属)に約144万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が28日、神戸地裁尼崎支部であった。杉浦一輝裁判官は「告知すべき義務があったのに、意図的に告知しなかった」として、弁護士に賃料や慰謝料など約104万円の支払いを命じた。

判決によると、弁護士は2011年5月2日、兵庫県尼崎市のマンションの一室を競売で取得。従来1人で住んでいた女性が同5日ごろに死亡したが、翌年8月、女性の死を説明せずに男性とこの部屋の賃貸借契約を結んだ。男性は同月末に引っ越したが、近所の住人から自殺の話を聞き、翌日には退去。9月20日に契約解除を通告した。

裁判で弁護士は「競売後の手続きは他人に任せており、自殺の報告を受けないまま部屋の明け渡し手続きを終えた」と主張したが、杉浦裁判官は「およそあり得ない不自然な経緯というほかない」と退けた。また、女性の遺体を警察官が搬出し、住人らが自殺と認識していたことなどを挙げ、「一般の人でもこの部屋は居住に適さないと考える。部屋には、嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的な欠陥という瑕疵(かし)がある」と判断。女性の死後に弁護士が部屋のリフォームを指示したことから、「部屋の心理的な瑕疵の存在を知らないことはあり得ない」と指摘した。
弁護士は「判決文を読んでいないので話しようがないが、控訴の方向で検討する」と述べた。【山田毅】

この判例では、説明義務を怠った場合、契約や転居に伴う費用が全て損害として認められたばかりでなく、賃料の約4ヶ月分に相当する慰謝料や弁護士費用までもが認められています。

貸室内で自殺があった場合、その物件価値が大きく下がってしまうため、賃貸経営を行っている大家さんも被害者の一人です。置かれている資産状況やキャッシュフローなどによっては、告知事項を隠してでも募集して入居者を誘致しなければならないと考えてしまうのも、心情的には理解できる部分ではあります。

しかし、「考えてしまう」と「実際に隠して募集する」には大きな差があります。告知義務違反は立派な違法行為です。インターネットやスマホの利用者の広がりによって、こんな事故部件情報はすぐにばれてしまいますので、告知事項がある物件については、必ず募集の段階や重要事項説明で告知事項を説明する必要があります。

まとめ

ここでは、「告知事項を告げずに契約した場合の損害賠償命令が出された判例」を事例として解説していきました。

貸室内で死亡事故があった場合などは、どうしても次の入居者を探すのが非常に難しく、ほとんどの場合、賃料を大幅に下げて契約するというパターンが多いと耳にします。
そのため、できるのであれば「告知事項あり」ということは伏せて空室募集を行いたいという心情も理解できる部分があります。

ただ、宅地建物取引業法において、重要事項説明の内容に「告知事項がありながら説明を行わなかった場合」は業法違反として損害賠償が発生してしまいます。
今や、インターネットなどで「事故物件」と調べれば多くの物件が出てくるように、告知事項を隠したとしてもバレてしまう可能性は高いため、隠した時に得られるメリットとバレた場合のデメリットを比較して考えた場合でも正直に「告知事項あり」として募集することが最善です。
もしも、大家さんから「告知事項を隠して募集するのはどうか?」と打診された場合でも、きっぱりと断ることが不動産管理会社の責務でもあります。

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