借地権付きの建物を賃貸で募集に出して契約する際の注意点
近年、不動産を購入する際に、借地権付きの物件という選択をされる方も増えているそうです。
※「借地権」は大きく分けて物権としての「地上権」と債権としての「借地権」が存在しますが、今回は債権としての借地権について説明していきます。
借地権とは「土地を借り、その上に建物を建築・所有して利用する権利」を意味します。つまり、借地代は払わなくてはいけない代わりに、土地を購入する場合より安いコストで物件を所有できるわけですね。
借地権付きの不動産のメリットについては以下のようなポイントが挙げられます。
- 土地を購入しないので、相場よりも安い値段で不動産を所有できる。
- 借地代を支払う代わりに、固定資産税、都市計画税を支払う必要がない。
- 一般的に借地権がついている土地は利便性や立地条件がいい土地が多い。
では、自分で住む予定で購入した借地権付きの一軒家が、転勤などで住めなくなった場合やお子さんに建物を貸したい場合、借地権付きの不動産を賃貸に出すことは可能なのでしょうか?
「自分の子どもに貸すのだしいいだろう」と思っていたら、地主から「勝手に転貸をするのは困る。続けるなら契約を解除する」と言われてしまったとしたら、借主は対抗することが可能なのでしょうか?
今回は、借地権付きの不動産を所有した後、賃貸に出す際の注意点を中心にまとめていきます。
借地権については大きく分けて5種類があります
本題に入る前に、簡単に借地権について説明をします。
現在、借地権は大きくわけて5つの種類に分別することができます。
- 普通借地権:契約期間を更新することで半永久的に賃借が可能。契約期間は建物の構造を問わず当初は30年、合意更新後20年、以降は10年
- 一般定期借地権:住宅用としての利用のみ。契約期間は50年。更新はなく終了後は更地にして返還する。
- 事業用定期借地権:事業用の利用のみ。契約期間は10年以上50年未満。更新はなく終了後は更地にして返還する。
- 建物譲渡特約付借地権:契約期間は最低30年。契約終了後に土地の所有者が建物を相当の価格で買い取る。
- 一時使用目的の借地権:工事の仮設事務所やプレハブ倉庫等で一時的に土地を借りること。
上記5つのほかに、1992年4月以前に締結した借地契約は旧借地法で規制されます。
旧借地法は、余程の理由がない限り借地契約が契約期間満了後に自動更新されるため、土地の所有者にとってはなかなか土地がかえって来ないというデメリットがありました。
現行の新借地法では、定期借地契約が認められるようになり、契約期間の終了後更地にして土地の所有者に返還することを義務付けられている、という点で土地の所有者にメリットが大きい契約といえます。
売買と賃貸ではルールが違うので要注意
借地権について理解が進んだところで、本題の借地権付きの不動産を売買や賃貸に出す際の注意点を解説していきます。
まず、民法612条1項で、土地の所有者の承諾を得ずに、賃借権を譲渡・売買することは「無断転貸」にあたるとされており、禁止されています。
(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
第612条
- 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
- 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる
引用元:民法第612条
土地の賃貸借は地主と借地人の間の信頼関係に基づき締結しているので、それを無断で譲渡・売買する行為は「信頼関係の崩壊」にあたります。
では、借地権付きの建物を賃貸に出すことができないか?というと、そうではありません。
借地上の建物を貸主の承諾を得ずに賃貸に出す行為は無断転貸に当たらない、という判例(大審院昭和8年12月11日等)があり、現在も通説とされています。
この根拠として、借地権は「土地の上に建物を建築所有して、土地を利用する権利」であるという考えがあります。
つまり、その建物に賃借人が住んでいようが、第三者が住んでいようが、土地の使用方法としては大差はなく、また第三者は建物を使用しているだけであり、土地の使用は間接的な使用はない為、信頼関係を崩壊させる行為には当たらないという判断されました。
以上の理由から、借地上の建物を地主の承認を得られない場合でも賃貸に出すことは可能といえます。
ただし、借地上の建物の売買に関しては、賃貸人の予想する利用範囲を超えており、認められません。
売買に出す際は、地主の承認を得なくてはなりません。
無断転貸禁止の特約がある場合はどうか?
では、土地の所有者と借地人が借地契約を結ぶ際に「借地人が借地上の建物を第三者に賃貸する場合も、賃貸人(土地の所有者)の承認を得ること」という一文がある場合はどうでしょうか?
実は、この場合も賃貸に出すことがほとんどの場合で可能です。
賃借人は借地借家法17条1項により、裁判所に借地条件の変更許可を求めることができる為です。
(借地条件の変更及び増改築の許可)
第17条 1項
建物の種類、構造、規模又は用途を制限する旨の借地条件がある場合において、法令による土地利用の規制の変更、付近の土地の利用状況の変化その他の事情の変更により現に借地権を設定するにおいてはその借地条件と異なる建物の所有を目的とすることが相当であるにもかかわらず、借地条件の変更につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、当事者の申立てにより、その借地条件を変更することができる。
引用元:借地借家法第17条
裁判所では、借地人と地主の利益衡量を考えた上で、一方的に不利益にはならないように判断・検討します。
しかし、前述のように土地上の建物の賃貸をすることが、地主にとって大きな不利益になるとは一般的には考えられないため、通常は賃貸借人の申し入れ通り借地条件の変更が認められる場合がほとんどです。
※例外として、建物の賃借人が反社会的勢力の場合などは変更が認められない場合があります。
賃貸に出すときの契約上の注意点
借地権付きの建物を実際に賃貸に出す際に気を付けなくてはならないのが、借家契約の種類です。
借家契約には「普通借家契約」と「定期借家契約」があります。
定期借家契約は、定められた契約期間が終了した時点で一度契約は終了し、更新はありません。
貸主と借主が合意した場合は、再契約を結ぶことができます。
一方、普通借家契約は原則更新を前提とした契約のため、貸主から一方的に契約を破棄したり更新を拒否したいすることができません。
前述のとおり、定期借地権で契約した借地上に建築した建物は、契約期間の終了後に更地にして土地の所有者に返さなくてはなりません。
もし、建物を取り壊す時期(借地契約の終了時期)になっても、普通借家契約で契約している借主が退去に応じないことがあれば、大変なトラブルとなってしまいます。
リスクを回避するためにも、借地権付きの建物を賃貸に出すときは、原則として定期借家契約で賃貸に出すようにするといいでしょう。
まとめ
ここまで、借地権付きの建物を賃貸に出す際の注意点について、説明してきました。
要点をまとめると以下のようになります。
- 借地上の建物を貸主の承認を得ずに賃貸に出すことは可能。
- 売買の場合は貸主の承認が必要
- 土地の所有者は借地上の建物の賃貸を制限する特約を作ることはできるが、借地人は内容変更の許可を求めることが可能
- 借地権付きの建物を賃貸に出す際は、定期借家契約での契約がおすすめ
また、ここまで「土地の所有者の承認がなくても賃貸には出せる」とご説明しましたが、あくまでも「法律上はできる」という話になります。
やはり地主さんとしては、自分の土地を知らない人に勝手に使われるという状態は気分のいいものではありません。事前に、事情を説明して了承をもらっておくことが望ましいでしょう。
また、賃貸に出す際は借地権の種類をよく理解し、定期借地契約の場合は定期借家契約で貸すことをおすすめします。普通借家契約を結ぶ場合は、定期借地権の契約満了時をもって借家契約も終了する旨を契約書に明記するようにしましょう。
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