未成年者と賃貸借契約は可能?契約締結における注意すべきポイントについて

未成年者と契約する場合の注意点や必要な手続きと、もしも家賃滞納が発生してしまった場合はどうなるかについて解説しています。

未成年者と賃貸借契約を結ぶ

未成年者と賃貸借契約を結ぶ際の注意点!

寒さの厳しい季節になってきましたが、あと数ヶ月もすれば不動産賃貸会社や大家さんにとっては一番の繁忙期となる春の引越しシーズンがやってきますね。
たくさんの入居候補者の中には新入学生を中心に未成年者も少なくはないのではないでしょうか?

未成年者が賃貸借契約を結ぶ場合、両親を契約者とする場合も多いでしょうが、場合によっては未成年者本人と契約する場合もあるでしょう。

未成年者と契約をするときは「親権同意書」を取り交わして両親の同意をもらう、というのは不動産や賃貸業界の仕事をされている方にとっては常識でしょうが、今回は「親権同意書を取り交わさずに未成年者と賃貸借契約を結んだ」というケースを想定し、どのようなトラブルが発生するリスクがあるのか、必要な手続きについてご紹介していきます。

もしも、未成年者と賃貸借契約を結んだ場合どうなる?

未成年者と賃貸借契約でトラブルが

それでは、まず今回のケースをわかりやすくするために、架空の「個人大家さんAさん」と、「未成年者Bさん」を登場させてストーリー仕立てで解説していきます。

Aさん:41歳男性。父親から相続した都内の賃貸アパートを自主管理する兼業大家さん。情に厚い性格。
Bさん:18歳男性。地方からミュージシャンを目指して上京し、両親とは絶縁状態。アルバイトはしているが生活は不安定。

Aさんが行きつけの小料理店。AさんはそこのアルバイトスタッフのBさんと音楽の話題がキッカケで親しくなりました。

聞いた所、Bさんはミュージシャンを目指して上京したばかり、アルバイトをしながら生計を立てているが、住む家がなく友人の家を転々としているとのこと。
情に厚いAさんは自分の所有するアパートの空室に格安の家賃で入居するように提案します。

しかし、Bさんは18歳の未成年者。さらに両親とは絶縁しており、「親権同意書」を取り交わしたり、「保証人」になってもらうことは難しい。また両親にも秘密にしたいと言ってきました。
AさんはBさんの夢を応援する意味も込めて、Bさんが未成年者と知りながら賃貸借契約を結びました。

...数ヶ月後

最初は真面目に家賃を支払っていたBさんですが、数ヶ月した頃から賃料の支払いが滞るようになりました。Aさんが慌てて滞納家賃の督促連絡をするも、携帯電話は音信不通。部屋はもぬけの殻で、アルバイト先も既に退職しているとのこと。

「滞納している賃料はなんとか回収したい!」と考えていたAさんのもとにBさんのご両親より電話が入ります。

Bさんのご両親からの電話の内容は以下の通りでした。

  • Bさんは既に実家に戻っている。
  • Aさんとの賃貸借契約についてはBさんより話を聞いているが、両親が同意していないので契約をなかったことにしたい。
  • そもそも未成年が無断で結んだ契約なので、滞納分の賃料を支払う気はない。

果たして、Aさんは諦めて泣き寝入りするしかないのでしょうか?
それとも滞納された賃料を回収することはできるのでしょうか?

ここからは不動産管理について詳しい、江川西川綜合法律事務所の井口賢人弁護士にお話を伺いました。

そもそも、大家さんは未成年者とアパートの賃貸借契約は結べるのか?

未成年者との賃貸借契約に関する法律

まず、大前提として、Aさんは未成年者であるBさんと自己の所有している賃貸マンションやアパートの賃貸借契約を結ぶことは可能なのでしょうか?

未成年者は法律的には「制限行為能力者」に分類され、契約などの法律行為法定代理人の承諾なくしては、有効に行うことができません。
もしも、法定代理人の同意を得ずに結んだ契約は、法定代理人が取消をすることができます。未成年者の場合、一般的には親権者が法定代理人に当たります。

未成年者の法律行為について民法第5条に記載がありますので、見てみましょう。

民法第5条(未成年者の法律行為)

  1. 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
  2. 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
  3. 第1項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。

したがって、Aさんとしては Bさんと賃貸借契約を締結するにあたって、法定代理人であるBさんの両親からの同意を得る必要がありました。
しかし、Bさんの両親は賃貸借契約に同意をしていませんから、Bさんの両親から賃貸借契約の取消しをされるおそれがあります。

ところで、Bさんが結婚をしていた場合は、Bさんが法律行為をすることについては成人に達したものとみなされ、制限行為能力者ではなくなるので、法定代理人の同意を得なくても、有効に契約が成立します。
これを成年擬制といいます。

民法第753条(婚姻による成年擬制)

未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなす。

もっとも今回のケースで、Bさんは未婚のため成年擬制は適用されませんが、未成年者と契約をする場合には注意点の一つとしておさえておきたいポイントです。

では、AさんとBさんが結んだ賃貸借契約が取消されると、契約はどうなるのでしょうか?

未成年者であることを理由に取消を行った場合、賃貸借契約はどうなる?

前述のように、法定代理人(親権者)の同意を得ずに、未成年者と結んだ契約は取り消すことができます。

ここでいう「取消」とは、その契約自体を「最初からなかったものにする」という意味です。この効果は遡及(契約を結んだ時点にさかのぼること)します。
つまり、Bさんの両親から取消を主張されるまで、契約は有効であり、賃料を請求することに問題はありません。しかし、取消を主張された場合は賃貸借契約自体がなかったものとなります。

以上の理由から、法定代理人(親権者)から賃貸借契約を取消しされた場合、Aさんは「滞納した賃料をBさんにも両親にも請求することはできません。」

この場合、大家さんは未成年者に滞納された家賃は諦めるしか無いのか?

まず、契約が取消された時点で、滞納した賃料もなかったものとなります。
さらに収受した賃料に関して、「返金して欲しい」と申し出があった場合、大家さんはこれまでの賃料を返金しなくてはなりません。

しかし、Aさんは無料で部屋を借りられて泣き寝入りするしかないかというと、賃料を回収する方法もあります。
民法では未成年の契約を理由とする取消について、その効果の範囲を規程しています。

民法第121条(取消の効果)

取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。

前述の通り、Bさんは未成年者のため、「制限行為能力者」にあたります。
このケースでの「現に利益を受けている限度」とは「Bさんが賃室を使用し生活したこと」を意味します。
以上のことから、Aさん(大家さん)はBさん(未成年者)が「使用した期間の賃料相当の金額を本人に返還請求することが可能」でしょう
また、貸室を使用した期間に部屋が損耗した部分の原状回復費用を損害賠償請求することは可能かもしれません。

ただし、相手方が任意の交渉によって支払いをしない場合に訴訟を提起して回収するのは、労力の面においても費用の面においてもなかなか難しいかもしれません。
賃貸管理の実務からいえば、返金すべき金額から、「実際に使用した期間の賃料相当分を相殺して賃料を回収する」というのが限度かもしれません。
つまり、「すでに回収済みの賃料を守る」くらいが上限であると考えられます。

未成年との契約で連帯保証人を立てた場合は賃料を請求できるか?

では、仮に今回のケースで、Bさんの両親がBさんの賃貸借契約の連帯保証人となっていたらどうだったのでしょう?

これについては、まず賃貸借契約と連帯保証契約の関係性がポイントになります。連帯保証人になるということは、貸主と保証人との間の保証契約です。
これは貸主と借主が結ぶ賃貸借契約とは別の契約ですが、賃貸借契約が前提にあり、それに対して保証契約は附従したものです。

そのため、仮に賃貸借契約が取消となった場合、保証契約は附従性(主契約とセットになっていること)により消滅するのが原則です。
しかし、民法第449条は「附従性の例外ともいえる規定」を置いています。

民法第449条(取り消すことができる債務の保証)

行為能力の制限によって取り消すことができる債務を保証した者は、保証契約の時においてその取消しの原因を知っていたときは、主たる債務の不履行の場合又はその債務の取消しの場合においてこれと同一の目的を有する独立の債務を負担したものと推定する。

Bさんの両親が、Bさんが未成年者であることを理由に取り消しできる契約と知りながら、賃貸借契約の保証人になった場合、主契約(賃貸借契約)が取消されても、Bさんの両親は、「Bさんの負う債務と同一の独立の債務を負担したもの」と推定されます。

つまり、もしAさんがBさんの両親を連帯保証人にしていれば、賃貸借契約を取り消しされても滞納された賃料を両親に請求することができたのです。さすがに「自分の息子が未成年かどうかを知らない」ということはないためです。
このように、仮に親権者からの同意書を取り忘れていた場合でも、親権者が連帯保証人になっているかどうかで、大きく結果は変わるのです。

事後的(契約後)に両親から未成年者の賃貸借契約を同意してもらった場合はどうか?

上述のような「親権同意書をもらう」「連帯保証人になってもらう」以外の方法として、事後的に同意をもらうという方法があります。
未成年者が独断で結んだ契約でも、後からその契約を認めることで契約の有効性が確定します。これを「追認」といいます。

AさんとBさんの賃貸借契約を事後的にBさんの両親が同意すれば、「追認した」とみなされ、契約は有効となります。

追認を行うことができる人は取消を行うことができる人と同じです。今回の場合では、法定代理人である、Bさんの両親が追認を行う権利を有します。(Bさんが成人した後であれば本人でも追認が可能です。)

民法第20条 (制限行為能力者の相手方の催告権)

  1. 制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の相手方は、その制限行為能力者が行為能力者(行為能力の制限を受けない者をいう。以下同じ。)となった後、その者に対し、一箇月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす。
  2. 制限行為能力者の相手方が、制限行為能力者が行為能力者とならない間に、その法定代理人、保佐人又は補助人に対し、その権限内の行為について前項に規定する催告をした場合において、これらの者が同項の期間内に確答を発しないときも、同項後段と同様とする。
  3. 特別の方式を要する行為については、前二項の期間内にその方式を具備した旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなす。
  4. 制限行為能力者の相手方は、被保佐人又は第17条第1項の審判を受けた被補助人に対しては、第1項の期間内にその保佐人又は補助人の追認を得るべき旨の催告をすることができる。この場合において、その被保佐人又は被補助人がその期間内にその追認を得た旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなす。

Aさん(大家さん)は両親に対して、契約を追認するかを一ヶ月以上の期間を決めて催告することができます。
これに確答しなかった場合は、追認したものとみなされ、契約を取り消すことができなくなります。

さらに、追認は追認の意思表示そのものによってなされる以外にも、「法定追認」という当該契約に基づく債務に対して一定の行為がなされた場合に追認があったものとみなす制度があります。

民法第125条(法定追認)

前条の規定により追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない。

  1. 全部又は一部の履行
  2. 履行の請求
  3. 更改
  4. 担保の供与
  5. 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡
  6. 強制執行

わかりやすく噛み砕いて説明すると、以下のような行為を行うと、追認の意思を表示していない場合でも、追認したものとみなされます。

  • 賃料の一部(又は全部)を両親が支払った。(全部又は一部の履行)
  • Aさんに対し、「早くBを入居させて下さい。」と求めた。(履行の請求)

親権同意もなく、連帯保証人もいないという場合は、契約を取り消しされうる状態ですから、事後的にでも追認してもらうことが重要です

今回お話を伺った「井口 賢人弁護士」のプロフィール

井口 賢人弁護士(江川西川綜合法律事務所/第一東京弁護士会所属)
早稲田大学大学院法務研究科修了、明治大学法学部卒業
不動産関連分野、IT・コンテンツ関連分野を中心に、企業法務全般を取り扱うほか、一般民事案件も多く手掛ける。その他の活動として、第一東京弁護士会弁護士業務改革委員会第5部会(中小企業部会)委員や、明大法曹会事務局を務める。

未成年との契約には必ず親権者(法定代理人)の同意を得ましょう!

親権同意書サンプル

ここまで、未成年と賃貸アパートにおける賃貸借契約を結んで家賃滞納が発生した場合のトラブルについて紹介してきました。

色々と例を挙げて説明してきましたが、要点をまとめると以下のようになります。

  • 未成年者と賃貸借契約を結ぶ際に法定代理人(親権者)の同意がない場合、法定代理人(親権者)は契約を取消することができる。
  • 契約が取消となった時点で、賃貸借契約はなかったものとなり、滞納した賃料は請求できない。ただし、未成年者が使用した期間の賃料相当の金額を本人に返還請求することは可能。
  • 法定代理人(親権者)が連帯保証人であれば、契約が取消となっても、賃料を法定代理人(親権者)に請求することができる。
  • 同意がない場合でも、事後的に親権者に追認をさせることで契約は有効となる。また、貸主は追認をするかを法定代理人(親権者)に勧告できる。

結局のところ、トラブルを未然に防ぐ為にも、未成年者と賃貸借契約を結ぶ場合は親権者の同意を書面で取り交わすことが大切です。
未成年者との契約は原則として不可とし、両親が契約者となってもらうようにルール決めをしておくことも有効でしょう。

オーナーさんからの大事なマンションやアパートを預かる立場でもある賃貸管理会社としてぜひ、本記事を参考に、未成年者と賃貸借契約を結ぶ場合はどのようなリスクがあるのかをしっかりと認識しておくことが大切なのではないでしょうか?

当サイトを運営している賃貸管理ソフトReDocS(リドックス)を使えば、「親権同意書」を簡単に作成することができます。
ぜひ、参考にしてみてください。

この記事は「クラウド賃貸管理ソフトReDocS(リドックス)」が運営しています。
私たちは、「不動産管理ソフトを活用することで解決できる課題」だけでなく「不動産管理に関わる全ての悩み」を対象として様々なことをお伝えしていきます。

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