入居者から「滞納した家賃を分割で払いたい」と相談されたとき、管理会社の担当者がその場で承諾するのは避けましょう。先に確認したいのは、滞納額だけではありません。貸主の意向、管理会社の権限、保証会社への報告期限、そして通常家賃と分割分を無理なく支払える計画かを整理する必要があります。
国土交通省の「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集」でも、貸主には分割払いに応じる法律上の義務があるわけではなく、滞納した事情や支払再開の見込みなどを説明し、十分に相談することが大切だとされています。分割払いを認めるかどうかは一律に決めず、契約と個別事情を確認して判断しましょう。
分割払いの申し出には、その場で回答しない
最初の連絡では、承諾や拒否を急ぐよりも、判断に必要な事実をそろえます。「確認して折り返します」と伝え、いつまでに回答するかを案内すると、その場しのぎの約束を防ぎながら話を前へ進められます。
まず確認する5つの項目
| 確認項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 滞納状況 | 対象月、元金、遅延損害金などの内訳、直近の入金日 |
| 支払困難の事情 | 一時的な資金不足か、収入減少などが継続しているのか |
| 支払再開の見込み | 次回の収入日、通常家賃を再び支払える時期、毎月捻出できる金額 |
| 契約関係 | 賃貸借契約、管理委託契約、保証委託契約、連帯保証人の有無と連絡条件 |
| 承認権限 | 管理会社だけで合意できるか、貸主や社内責任者の承認が必要か |
家賃保証会社を利用している場合は、代位弁済の請求期限や報告方法も確認します。入居者との分割協議を優先した結果、保証会社への手続期限を過ぎないよう、協議と契約上の手続は並行して進めてください。
支払計画は「通常家賃を払いながら減らせるか」で判断する
分割案を検討するときは、滞納分だけを見るのではなく、今後発生する通常家賃を加えて考えます。たとえば月額家賃8万円、滞納額24万円で、毎月2万円ずつ返済する計画なら、入居者が毎月支払う金額は合計10万円です。この金額を継続して支払える根拠がなければ、計画は途中で行き詰まる可能性があります。
計画に入れておきたい具体的な数字
- 初回の支払日と支払額
- 2回目以降の支払日と各回の支払額
- 通常家賃の支払日と金額
- 完済予定日
- 振込手数料や遅延損害金を含めた総支払額
「余裕がある月に多めに払う」「給料が入ったら支払う」といった表現では、予定と遅延の区別ができません。日付と金額を明確にし、初回入金を確認してから正式な計画に移すなど、自社の運用ルールも決めておくと管理しやすくなります。
合意内容は口頭で終わらせず、書面に残す
分割払いを認める場合は、電話での約束だけで終わらせず、当事者が後から同じ内容を確認できる形にします。書面の名称だけで効力が決まるわけではないため、ひな形をそのまま使うのではなく、対象となる契約と今回の合意内容を具体的に記載することが重要です。
合意書で明確にしたい事項
- 貸主、借主などの当事者と対象物件
- 作成日時点の滞納残高と対象期間
- 各回の支払額、支払期日、振込先
- 通常家賃を従来どおり支払うこと
- 入金を通常家賃、滞納元金、遅延損害金などのどれに充てるか
- 支払いが遅れた場合の連絡、再協議、以後の対応
- 合意日と、署名・押印・電子署名など当事者が確認した方法
入金の充当方法が曖昧だと、貸主と借主で認識する残高がずれる原因になります。既存の賃貸借契約や保証契約との関係を確認し、契約解除や法的手続への影響を含む条項を設ける場合は、締結前に弁護士へ相談してください。
合意後は「予定」と「実績」を分けて管理する
合意書を作成しても、入金確認が遅れれば早期対応につながりません。支払予定と実際の入金を別々に記録し、入金のたびに通常家賃と滞納分の残高を更新します。
| 管理する情報 | 記録例 |
|---|---|
| 支払予定 | 支払期日、通常家賃、分割返済額、支払後の予定残高 |
| 入金実績 | 入金日、入金額、充当先、入金後の実残高 |
| 連絡履歴 | 日時、連絡手段、相手の回答、次回の確認期限 |
| 社内判断 | 確認した契約、承認者、判断理由、保証会社などへの報告状況 |
担当者が休みでも対応が止まらないよう、電話メモ、メール、合意書、入金台帳を共通の案件番号で結び付けます。「対応済み」という記録だけではなく、未確認事項と次の期限まで残しておくことがポイントです。
支払期日を過ぎたときの対応を先に決めておく
約束した支払日を過ぎたら、まず入金処理の遅れや振込名義の違いがないかを確認し、確認できなければ速やかに本人へ連絡します。そのうえで、支払遅延の理由、入金可能日、今後も計画を継続できるかを再確認します。
再度の計画変更を担当者だけで約束せず、合意時に定めた社内手順に戻して判断しましょう。保証会社、連帯保証人、貸主への連絡や、内容証明郵便、支払督促、訴訟などを検討する段階では、それぞれの契約条件と法的手続を確認します。鍵の交換や室内の家財処分など、正規の手続によらない明渡しを求める行為は避けてください。
まとめ
滞納家賃の分割払いは、申し出を受けた場で可否を決めるのではなく、滞納残高、支払困難の事情、今後の通常家賃、契約条件、管理会社の権限を確認してから判断します。認める場合は支払日・金額・完済日・入金の充当方法を具体化し、書面と案件記録を残してください。
合意後は、予定と実績を分けて入金を追い、遅延が発生した時点で再確認します。解除や明渡し、強制執行などを検討する場合や、契約の解釈に迷う場合は、実行前に弁護士などの専門家へ相談しましょう。

