4-2 原状回復のガイドラインとクリーニング特約について

賃貸管理におけるトラブルの中に多いのが「退去時のトラブル」です。ここでは、国土交通省が取りまとめた原状回復の費用負担のあり方についてのガイドラインを、「原状に復す」「通常損耗」「クリーニング特約」といった語句の定義を含めて解説していきます。

賃貸管理を行うには、原状回復ガイドラインは必読です!

賃貸マンションやアパートなどの賃貸住宅の管理を行っていく中で、
入居者の退去に伴う原状回復工事などは避けられません。
そのため、個人大家さん・不動産管理会社のご担当者には、原状回復に関する基礎知識は必要不可欠です。

まず、「原状回復」とは?

一般的にアパートやマンションの賃貸借契約では、契約終了後に、借主は入居していた部屋を「原状に回復」して、貸主に明け渡さならければならないという内容が記載されていることがほとんどです。
前回の「4-1 契約解約、退去精算について」でも、少し触れましたが、復習の意味も込めて言葉の定義からもう一度見ていきましょう。

げんじょう‐かいふく【原状回復】

ある事情によってもたらされた現在の状態を、本来の状態に戻すこと。
例えば、契約を解除した場合、契約締結以前の状態に回復させること。

出典:原状回復(げんじょうかいふく)とは - コトバンク

この言葉の定義通り、「原状に回復する」とは「契約当初の状況に回復する」という意味として捉えることができます。
ただ、「契約当初の状況に回復する」といっても、建物や部屋は誰も入居していなくても、月日が経過するとともに汚れてしまったり、具合が悪くなってしまいます。それなのに、「契約当初の状況に回復する」ということなので、全てを新品同然に戻さなければならないとなってしまうと借主にとっては多大な負担となってしまいます。

そのため、裁判所の判例においては、「借主の故意・過失による損耗や劣化した部分を回復する」という判断を下しています。
全国賃貸不動産管理業協会のページにおいて、原状回復についての裁判所の考え方について以下のような記載があります。

裁判所は、「原状回復とは」①建物の通常損耗分をもとの状態に回復することではなく②賃借人の故意・過失等による劣化の回復を意味するとの判断を示してきました。

これは賃貸借契約の対象となる建物の価値は、そもそも時間の経過により減少するものであり、賃借人が物件を定められた使用方法に従って、社会通念上通常に使用していれば、賃貸借契約終了時に当初の状態よりも建物の価値が減価していたとしても、そのまま賃貸人に返還すればよい、という考え方に基づいています。

建物の通常損耗分は、賃貸人としては、建物の減価が進行する過程で減価償却費や修繕費用の必要経費分を賃料に含めて支払いを受けて回収してきているので、原状回復の対象となるのは、賃借人の故意・過失等による劣化分ということです。

出典:原状回復基礎知識|一般社団法人全国賃貸不動産管理業協会(全宅管理)

この、「原状回復」についての取り扱い方によって借主から「全部を新品に戻す費用を自分が負担するなんて納得できない!!」といったようなトラブルに発展してしまう事例が頻発してしまっていたことから、これから解説していく「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」を国土交通省が公表することとになりました。

「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」について

賃貸借契約についての相談内容

原状回復をめぐるトラブルが急増したことを受け、平成10年3月、国土交通省(当時の建設省)は、原状回復に関する裁判所による判例等を集約し原状回復に関する費用負担や考え方等に関するガイドラインを公表しました。
この「原状回復ガイドライン」のポイントは以下の通りです。

  • 原状回復の費用区分は、「経年劣化によるもの貸主負担」「故意・過失によるものは借主負担」である。
  • 退去時の請求における契約内容・特約についての規定を明文化
  • 退去する際の指針ではなく、入居する際にきちんと説明義務を果たすように促す。

原状回復の費用区分は、「経年劣化によるもの貸主負担」「故意・過失によるものは借主負担」である。

前述の通り、国土交通省では原状回復を「原状回復は、賃借人が借りた当時の状態に戻すことではない」とはっきり示しています。
これは、国土交通省のWEBサイトにも太字かつ赤字で表記されています。
また、原状回復における貸主・借主の負担となる内容については、以下のように定義されています。

  • 貸主負担分:経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用
  • 借主負担分:建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損

ここで、「原状回復」や「賃貸管理」を行う上で大切な「善管注意義務」という言葉が出てきました。
この「善管注意義務」は、不動産を管理運営していく上で重要なポイントなので、言葉の定義から見ていきましょう。

ぜんかんちゅうい‐ぎむ【善管注意義務】

業務を委任された人の職業や専門家としての能力、社会的地位などから考えて通常期待される注意義務のこと。
注意義務を怠り、履行遅滞・不完全履行・履行不能などに至る場合は民法上過失があると見なされ、状況に応じて損害賠償や契約解除などが可能となる。
善良なる管理者の注意義務。

出典:善管注意義務(ゼンカンチュウイギム)とは - コトバンク

言葉の意味をみると難しい言葉が並んでいますが、平べったく説明すると「自分のもののように注意して扱う」ということです。
賃貸建物なので、入居者さんの中には「お金を払って借りているんだから自分の好き勝手に使っても大丈夫!」といった考え方を持たれている方もまれにいらっしゃいます。

例えば、建具や設備が壊れそうだけど、自分にとっては問題ないから気にせずに利用し続けて、劣化を早めたり、壊れてしまって、「もっと早く報告してくれたら何とかなったのに。」というような場合もあります。
確かに、賃借人として自分が問題ないのであれば報告を行う義務は無いように見えますが、借主には借りている部屋に対して善管注意義務があるため、不具合があった場合は貸主や管理会社に対して報告を行う義務があります。
そのため、早めに報告すれば壊れなかった設備などが借主が報告を怠ったことが起因として劣化・破損した場合は「善管注意義務違反」として、その修繕費用を負担しなければなりません。

原状回復において、善管注意義務違反において借主が費用を負担しなければならない例として、

  • 結露を放置してカビてしまったり、建具が腐食してしまった場合。
  • 日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備の毀損
  • 飲みこぼし等の手入れ不足によるカーペットのシミ

などが挙げられます。
逆に、家具の設置による床やフローリングの凹みや設置跡、冷蔵庫や家電などによる電気ヤケなどは通常の利用における損耗とみなされ、それらの経年劣化分を回復するための修繕等の費用は賃料に含まれているとされており、借主に対して請求すべきではない費用としています。

退去時の請求における契約内容・特約についての規定を明文化

アパートやマンションの賃貸借契約といっても、契約自由の原則から様々な契約内容や特約を設定することができます。
※借地借家法や消費者契約法の規定に反しない範囲で。

この部分でトラブルになりやすいのが「ルームクリーニング」に関する費用負担です。
原状回復の一般原則においては、借主が退去時に貸室を適切に清掃して退去した場合は、部屋のルームクリーニング費用を請求することはガイドラインに反する内容とされています。
そのため、退去精算時に「ルームクリーニング費用」を借主に請求した場合、「自分は綺麗に掃除して引っ越したんだからこの費用は納得できない!」とトラブルとなってしまうことがあります。

そこで、原状回復ガイドラインにおいては、ガイドラインに定める原状回復義務を超えた修繕義務を借主に負担させるための契約・特約内容については以下の事項を満たす必要があるとしています。

  • 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
  • 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
  • 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

退去する際の指針ではなく、入居する際にきちんと説明義務を果たすように促す。

また、原状回復ガイドラインでは、退去時における貸主・借主の費用負担分のルールを指し示すだけでなく、「入居前の契約時」に解約精算に関する内容を説明するように促していくことも目的としています。
上記の「退去時の請求における契約内容・特約についての規定の明文化」についても、契約締結時に退去する際に「どのような場合に借主負担となるのか」「退去精算に必要な費用を規定しておく」など、賃貸借の出口の部分だけでなく「入り口」の段階からトラブル削減に取り組むように促しています。

解約に必要な費用について、入居前に相互確認の方法として「書面を用いて説明」「説明した内容に署名・捺印」することで、退去時のトラブルを未然に防ぐことが可能となります。
賃貸マンションやアパートの契約締結や重要事項の説明については、管理会社やオーナーが直接入居者に説明を行うよりも、不動産仲介会社による契約締結の方が多いかと思います。
そのため、クリーニング特約であったり、退去時に関する費用負担区分については、契約書内に盛り込むなどの対応が必要となってきます。

まとめ

原状回復のガイドラインにおけるポイントは「経年劣化や通常損耗は貸主負担」「故意・過失は借主負担」という基本原則を確実に把握しておくことです。
今回の解説では、経年劣化による減価償却であったり、具体的な負担区分のルールについては触れていませんが、ネット上でも原状回復に関するガイドラインは簡単に閲覧することができる状態にありますので、賃貸住宅の管理担当の方は一度は目を通しておくことをおすすめしています。

また、ガイドラインや契約内容の精査といったことも重要ですが、入居者とコミュニケーションをとって、意図しない善管注意義務違反を防いだり、言った言わないのトラブルを避けるように信頼関係を築いていくことも、同じように大切なポイントです。
お金に関わる業務はトラブルになりやすい傾向が強いため、正しい知識と普段の管理業務の徹底を行うことが必要となります。

次回は、「退去時に起こりやすいトラブルとその対応方法の事例について」について解説していきたいと思っています。

文: Bamboooby株式会社 代表取締役 高田 圭佑

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